銀河中心から外れた位置に見つかった巨大エネルギー源
【2023年1月27日 広島大学】
宇宙に存在する銀河の多くは、衝突を繰り返すことで成長している。衝突の際には活発な星形成が促されるほか、大質量のブラックホールの形成や成長が引き起こされるなど、銀河の性質に大きな変化がもたらされる。こうした衝突に伴う銀河の変化を知るには、波長の長い赤外線などによる観測が必要だ。紫外線や可視光線は、衝突で圧縮された銀河のガスや塵で遮断されてしまうためである。
広島大学宇宙科学センターの稲見華恵さんは過去に赤外線天文衛星「スピッツァー」を用いて、いるか座方向の衝突銀河「II Zw 096」を観測し、巨大な赤外線エネルギー源が存在することを突き止めていた。しかし、スピッツァーの空間分解能が足りないため、エネルギー源の正確な位置を特定するには至っていなかった。
そこで稲見さんたちの研究チームは、赤外線で高感度、高解像度の観測が可能なジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)でII Zw 096を観測し、銀河の「エンジン」とも言うべき赤外線エネルギー源の正確な位置を突き止めることに成功した。
銀河のエネルギー源は最大でも570光年ほどと見積もられていて、大きさ約6万5000光年の銀河に対して100分の1以下しかない。そのような小さな領域から、最大で銀河全体の70%もの赤外線エネルギーが放射されている。しかも、このエネルギー源は銀河中心から外れた場所にある。これまでに観測された衝突銀河の巨大エネルギー源は銀河中心や衝突の境界面で見つかることがほとんどで、「エンジン」が銀河の中心から外れたところに存在するのは珍しい。
稲見さんたちは他にも3つの衝突銀河をJWSTで観測していて、赤外線エネルギー源の成因や性質の解明を目指し分析を進めている。
〈参照〉
- 広島大学:ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡により合体銀河の巨大エネルギーを担う「エンジン」を特定
- The Astrophysical Journal Letters:GOALS-JWST: Unveiling Dusty Compact Sources in the Merging Galaxy IIZw096 論文
〈関連リンク〉
- James Webb Space Telescope:
- STScI:ERS PROGRAM 1328
- GOALS - Caltech
- Spitzer Space Telescope:
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