可視光線では静穏、X線では爆発的に輝く銀河中心核

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静穏と考えられていた2つの銀河で、ほぼ周期的でパルスのようなX線の放射が見つかった。従来観測が難しかった、比較的低質量の銀河中心ブラックホールを研究する新たな切り口となるかもしれない。

【2021年5月20日 埼玉大学

遠方の宇宙には、銀河の中心核が残りの銀河全体よりも明るく輝く天体が存在する。この輝きは中心に位置する超大質量ブラックホールが物質を引き寄せる過程で生じるエネルギーによるものだ。天の川銀河や他の多くの銀河の中心にも超大質量ブラックホールはあるが、活動的な銀河中心核と比べれば質量が一回り小さく、また周囲に取り込む物質がほとんど残ってないため、それほど目立たない。

そうした静穏な銀河中心核の中にも、X線の眼で見れば爆発的に輝いているものが存在するようだ。独・マックスプランク地球外物理学研究所のRiccardo Arcodiaさんたちの国際研究チームは、X線望遠鏡eROSITAによる観測から、これまで静穏と考えられていた2つの銀河に、ほぼ周期的で巨大なパルスのようなX線放射があることを発見した。eROSITAは露独のX線天文衛星Spektr-RGに搭載された装置で、X線で全天を掃天観測しており、あらゆる方向を継続的に複数回観測しているため、突発的な天体現象を探すのに適している。

ヨーロッパ宇宙機関のX線天文衛星XMMニュートンと国際宇宙ステーションに搭載された中性子星観測装置「NICER」による追観測結果と合わせると、これらの2天体にはいずれもわずか数時間の間に振幅の大きいX線の変動が見られた。ピーク時に発するX線の強さは、一つの銀河全体が発するX線に匹敵するほどのものだ。

準周期的X線変動が見られた1つ目の銀河の可視光線画像とX線の光度変化
eROSITAの全天観測で初めて発見された準周期的X線変動が見られた銀河、くじら座の2MASS 02314715-1020112(赤方偏移z=0.05)。緑の線はNICERによって得られたX線の光度変化で、X線変動の最大から最小までの時間は約18.5時間である(提供:MPE; optical image: DESI Legacy Imaging Surveys, Legacy Surveys / D. Lang (Perimeter Institute)、以下同)

一方、日本の光・赤外線天文学大学間連携(OISTER Web)による観測などからは、2つの銀河には活動銀河核のようなスペクトルや光度変化は見られなかった。このことから、X線の準周期的変動を引き起こしている原因は大量の物質がブラックホールに流れ込んでいることではないとみられ、ブラックホールの周囲を公転する恒星や白色矮星程度の質量が小さな天体だろうと考えられている。

準周期的X線変動が見られた2つ目の銀河の可視光線画像とX線の光度変化
eROSITAで2番目に発見された準周期的X線変動が見られた銀河、エリダヌス座の2MASX J02344872-4419325(赤方偏移z=0.02)。紫の線はXMMニュートンによって得られたX線の光度変化で、約2.4時間周期の変動が見られる

超大質量ブラックホールの周りを回る恒星質量天体は、重力波を放ちながら少しずつ軌道が小さくなると予想される。そのため、将来の重力波望遠鏡による観測対象としても期待されている。X線による観測を重ねることで、小天体が公転しているというシナリオが合っていることが確認されれば、重力波と電磁波といった複数の経路から天体を調べる「マルチメッセンジャー天文学」の新たな可能性が開かれそうだ。

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