小惑星による2.6等星の食、観測成功!

このエントリーをはてなブックマークに追加
4月13日、小惑星アフティによるぎょしゃ座θ星マハシム(2.6等)の食が鹿児島県で観測された。この小惑星による恒星食は日没後わずか23分という厳しい条件で、さらに当日の天候は不良だったが、雲間をついての奇跡的な観測成功となった。

【2022年4月18日 星ナビ編集部

解説:早水勉さん(佐賀市星空学習館HAL星研

小惑星による恒星食は、小惑星が運行中に背景の恒星を隠す現象だ。この種の現象では、隠される対象星が10等級よりも明るければ好条件であり、4月13日(水)夕方に起こったぎょしゃ座θ星マハシムの食は2.6等星が隠されるという例外的に極めて明るい現象だった。国内でこれ以上に明るい恒星食が観測されたのは、過去に1991年1月の小惑星ミルラ((381) Myrrha)によるふたご座γ星アルヘナ(1.9 等)食の1度しかなく、今回の観測成功は31年ぶりの快挙となった。

この現象は広く注目を集めたが、不運にも予報では降水確率80%という天候で、筆者を含め地元の鹿児島県の天文愛好家たちからも観測を断念する連絡が続いた。ほとんど雲に覆われている薄明の中、鹿児島県鹿屋市で観測に臨んだ石井馨さん(東京都)のみが、奇跡的に食現象の観測に成功した。

「小惑星アフティによる、ぎょしゃ座θ星(2.6等星)の掩蔽」動画。10:08:52(世界時)に注目。約1.5秒間、恒星が消失する(撮影:石井さん)

石井さんの観測は予報ときわめてよく一致しており、小惑星の推定直径40.2kmとほぼ同じ40.3km+/−0.8kmの弦が求められた。この予報は、今年2月末に公開されたばかりのUBAD星表(USNO Bright-Star Astrometric Database)を使って改良されていたものだ。現在最も高精度とされるガイア星表(Gaia EDR3)は、意外にも輝星に対しての精度は劣るため、これを補うためにUBAD星表が作成されている。マハシムはこのUBAD星表に含まれており、星表が作成されてから世界で初めて精度を評価する観測データとなった。

改良予報図と整約図
改良された予報図。減光は約14.6等、継続時間は最長でも1.55秒ほどと考えられていた。赤い点が石井さんの観測地。(Google Mapにて作成:早水勉・IOTA)。右図は観測から得られた整約図。小惑星の推定直径とほぼ同じ長さの小惑星の弦40.3kmが得られた(整約計算:早水さん)

「現象の1時間前までは空一面の曇天で、現象30分前に雲の切れ目からカペラをとらえることができました。絶望的な空模様で何度も心が折れかけましたが、奇跡的に現象の直前に雲の切れ間が広がり、何十回と繰り返した事前リハーサルの手順通り、対象星を導入し現象の14分前にぎょしゃ座θ星をビデオ画像でとらえました」(石井さん)。石井さんのあきらめない観測姿勢と優れた観測技術が呼び込んだ、奇跡的な観測成功と言えるだろう。


早水さんによる観測予報は「星ナビ」2022年4月号に掲載しています。また、石井さんの観測遠征記は6月3日(金)発売の「星ナビ」7月号で掲載予定です。

星ナビ2022年4月号
星ナビ2022年7月号

〈関連リンク〉