「にがり」成分からわかった、リュウグウ母天体の鉱物と水の歴史

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小惑星「リュウグウ」の試料に含まれるマグネシウム同位体の分析から、リュウグウ母天体の中で鉱物ができた順序や水質の変化の歴史が明らかになった。

【2024年9月12日 海洋研究開発機構

リュウグウのようなC型小惑星は、火星と木星の間にある小惑星帯(メインベルト)を代表する始原的な小惑星で、原始惑星系円盤の中で惑星にならなかった固体成分だと考えられている。

これまでに「はやぶさ2」が持ち帰ったリュウグウ試料の様々な分析が行われているが、水などに溶けやすい成分(可溶性成分)の含有量や組成、化学的な性質はあまり詳しくわかっていなかった。

海洋研究開発機構の吉村寿紘さんたちの研究チームは、試料に含まれる鉱物や化学抽出物の組成を知ることで、リュウグウの母天体に含まれていた水の水質やその後の物質の進化を復元できると考え、リュウグウ試料に金属元素として鉄の次に多く含まれるマグネシウムに着目した。

吉村さんたちはリュウグウ試料を水や熱水・弱酸・強酸で順番に抽出し、抽出物に含まれるナトリウム・マグネシウム・カルシウム・カリウムなどの陽イオンの比率やマグネシウムの同位体組成を測定し、マグネシウムを含む鉱物が水から沈殿していった順序を詳しく調べた。また、炭酸マグネシウムの鉱物の一種である「ブロイネル石」((Mg,Fe)CO3)の微粒子をリュウグウ試料から単独で取り出し、レーザー顕微鏡や高精度同位体質量分析計を使った精密な分析も行った。

マグネシウム炭酸塩の単離・解析
リュウグウ試料からマグネシウム炭酸塩を単離して解析する様子。(A)小惑星リュウグウ、(B)採取されたサンプル粒子「C0002」。(C)C0002から回収した「ブロイネル石」の微粒子。(D)C0002から選別した微小な炭酸塩の顕微鏡写真。(E・F)Dの赤い点線の枠内を高空間分解能顕微分析で鉱物の同定をした画像。さらにこれを精密な溶液化学分析にかけた(提供:海洋研究開発機構リリース、以下同)

分析の結果、マグネシウムを多く含む無機鉱物が母天体の中で水から沈殿していった順番が明らかになった。リュウグウの母天体では、マグネシウムイオンは水質変成によってまず層状ケイ酸塩(粘土鉱物)となって沈殿し、次に炭酸塩鉱物となって沈殿したと考えられる。

これによって水中のマグネシウムイオンは減り、母天体の中で水と鉱物が最後に接触していた時代の水質はナトリウムに富んでいたと推定される。一般に、層状ケイ酸塩などの粘土鉱物の表面や有機物の分子には負の電荷を帯びている部分があるが、こうした鉱物の表面にナトリウムイオンが結合し、一部のナトリウムイオンは可溶性や揮発性の有機物との塩を作ったと考えられる。

陽イオンの比率
化学抽出物中に含まれるマグネシウム、カルシウム、ナトリウム+カリウムの比率。それぞれ青い矢印の方向に向かって多くなることを示す。赤(A0106)、青(C0107)が今回分析した2種類のリュウグウ試料。シンボルの形は溶かした溶媒の違いを表す。黄色は地球に落下したCI隕石(リュウグウと同じタイプに属するオルゲイユ隕石)、水色はその他の代表的な炭素質隕石(Cung隕石、CM隕石)。星印は太陽系全体での存在比、十字はリュウグウ母天体の水質を表す

陽イオン-有機物-鉱物間の相互作用
研究で明らかになった、リュウグウでの陽イオン-有機物-鉱物の相互作用を描いた概念図。層状ケイ酸塩鉱物と水が接触している領域では、陽イオンや有機化合物が静電気力で鉱物表面の近くにあり、負の電荷を帯びた層状ケイ酸塩の表面にナトリウムイオンなどが結合する。水中には主にナトリウムイオンが多く残る

ナトリウムとマグネシウムは地球の海水でも主要な塩分であり、これらを含む塩水は「にがり」とも呼ばれる。海水ではナトリウムイオンが陽イオンで最も多く、次に多いのがマグネシウムイオンだ。今回の研究で、リュウグウ母天体に存在した水でも同じ順序で陽イオンが溶存していたことがわかり、初期の太陽系で起こった水を仲立ちとする化学反応の詳しい歴史が初めて明らかになった。

今回使われたマグネシウム同位体の組成分析を、NASAの探査機「オシリス・レックス」が持ち帰った小惑星「ベンヌ」などの始源天体の帰還試料にも使うことで、始源的天体の進化過程の似ている点や多様性についての手がかりが得られれば、始源天体自体の進化や、こうした始源天体が原始地球にもたらしたと考えられる水や有機物についても貴重な知見となり、地球の海や生命の起源や進化を解明することにもつながるかもしれない。

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