タンパク質構成アミノ酸が一部の天体グループだけに豊富に存在する理由
【2023年12月25日 東京工業大学地球生命研究所】
隕石として地球に落下してくる小天体のうち「炭素質コンドライト」と呼ばれるタイプのものには、アミノ酸や核酸塩基、糖に関連した化合物など多くの生命構成要素と、(鉱物中の水酸基の形で)水が豊富に含まれていて、生命誕生に重要な前提条件である水と有機物を初期地球にもたらした供給源と考えられている。
しかし、炭素質コンドライトに含まれるすべての有機物が生命に関連しているわけではない。タンパク質構成アミノ酸ではないアミノ酸は炭素質コンドライトにおいて頻繁に同定されるが、現在の生命には利用されず、生命の誕生にも寄与しないものだ。最近の研究では、強い水質変成を経験した炭素質コンドライトには非タンパク質構成アミノ酸が豊富に見つかるという結果が得られており、水質変成によって引き起こされた化学過程がアミノ酸の分布を作り出したことが示唆されている。探査機「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウの試料もタンパク質構成アミノ酸の含有量が少なく(=非タンパク質構成アミノ酸が多く)、同様に強い水質変成を経験していることがわかっている。
こうした観測事実を説明するモデルとして、東京工業大学地球生命研究所の李亜梅さんたちの研究チームは、電気化学的条件に応じてタンパク質構成アミノ酸を分解する反応経路を見出した。李さんたちは、水に富んだマントルで生じるアミノ酸の還元分解反応と岩石コアで生じる水素酸化反応を電気化学的に結合させるという経路をシミュレートした。
その結果、一硫化鉄と硫化ニッケルを触媒として、グルタミン酸とアスパラギン酸という2種類のタンパク質構成アミノ酸が、非タンパク質構成アミノ酸へと分解されることがわかった。強い水質変成を経験した炭素質コンドライトやリュウグウの試料に非タンパク質構成アミノ酸が多く、水質変成をあまり経験していない炭素質コンドライトにはタンパク質構成アミノ酸が多く含まれているという分析結果をよく説明する結果である。
さらに研究チームは、異なる炭素質コンドライトグループ間の化学的な不均一性を説明する、次のような新しい進化モデルを提案した。母天体である氷微惑星が水・岩石分化していたと仮定すると、コアとマントルの水・岩石比が大きく異なるため、天体内部に大きな化学・酸化還元勾配が存在したと考えられる。アミノ酸はコアではよく保存される一方、マントルでは分解される。このような天体が太陽系の内側領域に移動するのと合わせて、天体の衝突と破壊が起こり、全く異なるアミノ酸分布を持つ小惑星が誕生したと考えられる。
研究チームは、このような岩石コアと水に富んだマントルの分化が、様々な炭素質コンドライトグループ間で観測されたアミノ酸の不均一性を少なくとも部分的に説明できると提案している。また、反応経路は触媒となる鉱物と酸化還元条件に大きく依存する。
今回の研究成果は、宇宙化学進化の歴史を解明するために鉱物と有機物の組み合わせを利用する根拠を提供するものとなる。今年9月にNASAの小惑星探査機「オシリス・レックス」が試料を持ち帰った小惑星ベンヌを含め、他の水と岩石が相互作用した環境における化学進化の理解にも、鉱物と有機物の組み合わせは応用できる可能性がある。それにより、始原的な太陽系天体における化学進化と、それが生命の起源に与える影響についての理解がいっそう深まると期待される。
〈参照〉
- 東京工業大学地球生命研究所:炭素質コンドライト隕石と小惑星リュウグウのアミノ酸クライシス
- Science Advances:Aqueous breakdown of aspartate and glutamate to n-ω-amino acids on the parent bodies of carbonaceous chondrites and asteroid Ryugu 論文
〈関連リンク〉
- 「はやぶさ2」:
- 星ナビ.com 「はやぶさ2」ミッションレポート
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