AI技術でリュウグウとベンヌの全ての土砂を高速自動計測
【2025年4月14日 東京大学大学院工学系研究科】
地球や月、小惑星など、太陽系には様々な岩石天体が存在する。これらの岩石の性質や分布を詳細に把握することは、天体の誕生や進化の理解につながる。また、とくに地球においては自然環境や地質学的現象の解明に深く関わり、鉱山、土木、建設、防災などの現場でも有用な情報となる。
このように岩石の分布を調べることは重要だが、大小様々な形状の土砂が膨大に含まれた集合体に対して分布を把握するのは非常に困難だ。把握に要する時間的な問題に加えて、手作業では正確かつ客観的で再現性のある解析が難しいという問題もある。
東京大学の清水雄太さんたちの研究チームは、約7万個の岩石の輪郭データから階層的に抽出された特徴を基に、主に画像認識の分野で用いられるAI(人工知能)のディープラーニング(深層学習)アルゴリズム「畳み込みニューラルネットワーク」を用いて、岩石を高速かつ高精度に自動識別する手法を確立した。この手法により、大量の岩石を同一の判断基準で画一的に、再現性を担保して解析することが初めて可能となった。
清水さんたちはこのアルゴリズムを用いて、JAXAの探査機「はやぶさ2」がとらえた小惑星「リュウグウ」の画像データと、NASAの探査機「オシリス・レックス」がとらえた小惑星「ベンヌ」の画像データを分析した。その結果、合計約1万枚の画像から、のべ約350万個もの岩石が識別され、重複を取り除いて最終的に合計約20万個の岩石のサイズ・形状・位置の分布が明らかにされた。両小惑星上に存在する大きさ1m以上の岩石全てを記録、解析した、革新的な成果だ。
小惑星ベンヌ(上)とリュウグウ(下)の岩石の自動識別結果(提供:東京大学リリース、以下同)
岩石の分布から、リュウグウは自転が遅いために表面の岩石が赤道から極へ流れ、反対にベンヌは自転が速いために極から赤道へ岩石が移動していることが判明した。ベンヌでは極方向の移動の痕跡も認められていて、かつてはリュウグウと同様に自転が遅かったと推察される。
さらに理論的計算から、こうした天体上での物質の移動方向は、ある自転周期を境に数時間異なるだけで逆転することもわかった。これは自転周期の変遷に伴って、天体の姿が大きく変容したことを意味している。自転速度のわずかな差が現在の小惑星の全体形状を支配しているという、重要な知見が得られた。
自転周期の違いが駆動する小惑星の多様な進化。ある自転周期を境に、自転周期が遅い場合、表面の土砂は極へ、速い場合は赤道へ移動する。さらに速くなると土砂は宇宙空間に放出され、月を形成して二重小惑星となる。自転周期の違いを鍵として、統一的に多様な小惑星の描像を説明できる。画像クリックで表示拡大
今回開発された岩石の自動識別アルゴリズムは、手作業で2週間ほど要する画像解析をわずか数秒で行う。膨大な数の岩石解析が可能となったことで、これまでわかっていなかった多様な天体の進化過程の理解が進むだろう。防災や土木工学、農業など産業面での応用も強く期待される。
AI技術で土砂を自動解析する今回の研究成果の概念図
今回の研究成果の紹介動画「Diverse Evolutionary Pathways of Spheroidal Asteroids Driven by Rotation Rate」(提供:Miyamoto Lab@U Tokyo)
〈参照〉
- 東京大学大学院工学系研究科:AI技術で小惑星の全ての土砂を高速自動計測 ―鉱山、土木、建設、防災へ応用可能―
- Scientific Reports:Diverse evolutionary pathways of spheroidal asteroids driven by rotation rate 論文
〈関連リンク〉
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