リュウグウの岩石試料が始原的な隕石より黒いわけ

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リュウグウ試料と始原的なCIタイプ隕石はよく似ているとされるが、リュウグウ試料のほうがずっと黒い。隕石を加熱して比較した実験から、隕石は地球落下後に明るくなったとみられ、その母天体は本来黒かったと示唆されるという結果が得られた。

【2023年12月15日 東北大学

小惑星を構成する鉱物や有機物には、太陽系の最初期の情報が含まれていると考えられている。こうした物質を特定するため、小惑星を観測して得られる反射スペクトルと、小惑星から飛来したとされる隕石の反射スペクトルとを比較する研究が進められている。

2020年に探査機「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウの試料からは、隕石の分析だけではわからなかった宇宙空間での小惑星の姿が解明されつつある。リュウグウの試料は地球環境での変質を経験しておらず、オリジナルの情報が残っているからだ。分析によると、リュウグウ試料の主成分は水酸基を含む含水鉱物で、他のタイプの隕石より揮発性成分に富み、化学的に最も始原的なCIタイプの隕石とよく似ているとされている。

ところが、リュウグウ試料とCIタイプ隕石の反射スペクトルを比較すると、リュウグウ試料はCIタイプ隕石よりずっと黒く、可視光線波長域の反射率には2倍の差がある。CIタイプ隕石を摂氏500度で加熱すればリュウグウと同程度の暗い反射スペクトルを示すが、加熱後のCIタイプ隕石では含水鉱物が部分的に分解していて、含水鉱物が分解していないリュウグウ試料とは異なる構成物質を持つといえる。

「リュウグウの構成鉱物はCIタイプ隕石に似ているにもかかわらず、なぜリュウグウの反射スペクトルはCIタイプ隕石よりも圧倒的に黒いのか」という疑問を解明しようと、東北大学の天野香菜さんたちの研究チームは、リュウグウ試料と、CIタイプ隕石の代表であるオルゲイユ隕石、オルゲイユ隕石を様々な条件で加熱した試料について、反射スペクトルを測定した。

リュウグウ試料とオルゲイユ隕石
リュウグウ試料とオルゲイユ隕石。リュウグウ試料はオルゲイユ隕石に比べて暗い物質が大部分を占めている(提供:(左)JAXA、(右)論文著者撮影)

天野さんたちはまず、試料を地球大気に触れさせずに反射スペクトルを測定する方法を確立し、宇宙空間での姿に限りなく近い状態でリュウグウ試料の反射スペクトルを測定した。続いて、オルゲイユ隕石を真空かつ還元的環境において様々な温度・時間条件で加熱し、リュウグウ試料と同様に大気に触れさせずに反射スペクトルを測定した。その結果、摂氏300度で加熱した試料が最もよくリュウグウの反射スペクトルの特徴を再現することがわかった。

さらに、加熱後の隕石試料の構成物質を調べたところ、300度の加熱では含水鉱物は分解されなかったが、含水鉱物に含まれる鉄の還元が起こっていたことがわかった。また、加熱によって非加熱のオルゲイユ隕石に含まれていた分子水が除去され、硫酸塩が脱水することもわかった。この加熱されたオルゲイユ隕石の構成鉱物の特徴は、リュウグウの構成鉱物の特徴とよりよく一致した。

反射スペクトルの比較
反射スペクトルの比較(提供:論文中の図5Aを改変)

研究チームは今回の結果を次のように解釈している。オルゲイユ隕石などのCIタイプ隕石は、地球環境に長らくさらされて、含水鉱物中の鉄の酸化や地球の水の吸着、硫酸塩の生成などの変質が起こっていたと考えられる。今回の実験による加熱で、その影響が多少取り除かれた結果、加熱後のCIタイプ隕石とリュウグウ試料の特徴が似たものになったのだろう。リュウグウが過去に300度の加熱を受けたわけでないという。

オルゲイユ隕石は1864年にフランスに落下したものだが、それから150年以上にわたって地球大気中の酸素や水分子と反応したために、反射スペクトルが明るく変化してしまったと考えられる。CIタイプ隕石の母天体は本来、リュウグウのようにより暗い(黒い)反射スペクトルを示すことを示唆する結果である。

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