リュウグウ試料に水循環で生じたクロム同位体不均質が存在
【2023年11月15日 東京工業大学】
小惑星リュウグウの試料の分析では、チタン・クロム・鉄・亜鉛の「核合成起源同位体異常」が測定されている。試料や隕石に含まれる元素の同位体は超新星や赤色巨星など複数の供給源からもたらされるが、その供給割合のわずかな違いによって、元素の同位体組成に違いが表れる。これが核合成起源同位体異常で、試料等の母天体の形成位置に関する情報を与えうるものとして注目されている。
リュウグウの化学組成や鉱物組成はイブナ型炭素質隕石とほぼ一致しており、同位体的特徴も似ている。このことから、リュウグウやイブナ型炭素質隕石の起源天体は他の隕石起源天体とは異なり、より遠方の太陽系縁辺部で誕生したことが示唆されていた。しかし、クロムの同位体異常についてはリュウグウとイブナ型炭素質隕石の間にわずかなズレが見られ、その原因究明が待たれていた。
東京工業大学の横山哲也さんたちの研究チームは、リュウグウの試料5点についてチタンとクロムの核合成起源同位体異常を測定した。また、2種類のイブナ型炭素質隕石を含む全6種類の炭素質隕石についても同様の分析を行った。その結果、リュウグウとイブナ型炭素質隕石のチタン同位体異常(ε50Ti)は、先行研究で得られたイブナ型炭素質隕石の範囲とほぼ一致したが、クロム同位体異常(ε54Cr)には、先行研究より低い値から高い値まで大きな変動が見られた。
この変動の原因としては、今回分析した試料の質量(7~24mg)が先行研究で用いられた試料(100mg以上)に比べてかなり少量であり、不均質に分布した試料を少量測定したためだと考えられる。起源天体が本来持つ同位体組成を正しく知るには小片試料では不十分で、一定の均質試料といえるような大きい試料の分析が必要であることを強く示す結果である。
さて、そもそも微粒子の不均質分布はなぜ生じるのだろうか。これには、リュウグウやイブナ型炭素質隕石の起源天体に存在していた氷が溶けて周囲の岩石と反応を起こす「水質変成」が深く関与している。水質変成が起こると、岩石中の可溶成分が流体に溶け込んで天体内を循環し、様々な二次鉱物を沈殿させる。この際、クロム54(54Cr)に富む微粒子は流体に溶けにくいため、流体は相対的に54Crが欠乏して低いε54Crを持つようになり、結果として二次鉱物のε54Crも低くなる。以上のことから、ε54Crが低いリュウグウやイブナ型炭素質隕石の小片試料には、より多くの二次鉱物が含まれていたと考えられる。
このシナリオは、マンガン53(53Mn)の放射壊変によって生じる娘核種のクロム53(53Cr)の測定結果からも支持される。流体から沈殿した二次鉱物のドロマイトなどの炭酸塩はマンガンを多く含むため、クロム同位体異常(ε53Cr)は高くなるが、実際にリュウグウとイブナ型炭素質隕石のε54Crはε53Crと逆相関しており、ドロマイトの多い(ε53Crの高い)試料が流体の影響により低いε54Crを持っていることを示している。53Crの量を時間に換算したところ、二次鉱物の沈殿が太陽系の誕生から約520万年後に生じたこともわかった。
以上のようなことから、今回の結果は、リュウグウとイブナ型炭素質隕石の起源天体が誕生したタイミングや場所、形成過程に多くの共通性があり、両者は親戚関係にあるというこれまでの描像を補強するものとなった。
今後、リュウグウのより精密な平均組成を得るために、可能な限りサイズの大きな試料を用いた再分析が行われることが望まれる。また、NASAの探査機「オシリス・レックス」が持ち帰った小惑星ベンヌの試料は250gにも及ぶが、B型小惑星に分類されるベンヌの起源天体も水質変成を受けたと考えられるため、その試料の分析でも100mg程度以上の試料を用いることが望ましいだろう。
〈参照〉
- 東京工業大学:リュウグウ起源天体の水循環が作り出すクロム同位体不均質-小惑星帰還試料の同位体分析における重要な指針を提示
- Science Advances:Water circulation in Ryugu asteroid affected the distribution of nucleosynthetic isotope anomalies in returned sample 論文
〈関連リンク〉
- 「はやぶさ2」:
- 星ナビ.com 「はやぶさ2」ミッションレポート
- OSIRIS-REx:
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