10万時間の宇宙シミュレーションを機械学習で数秒に
【2022年6月2日 大阪大学】
宇宙がどのようにして現在の形になったのかを検討する上では、大規模なシミュレーションによって仮想宇宙を作り出す実験が欠かせない。この仮想宇宙では、現実の宇宙と同じように、観測できる通常の物質や暗黒物質、暗黒エネルギーの相互作用を計算することで、宇宙の大規模構造を再現できるようになってきた。
しかし、必要とされる計算の量は膨大であり、現状の計算機設備では、観測できる宇宙の範囲に比べて小さな体積しか再現できない。計算の高速化を図ると、どうしても精度が犠牲になってしまう。
スペイン・カナリア天体物理研究所のFrancisco-Shu Kitauraさんたちと、大阪大学の長峯健太郎さんたちの研究チームは共同で、「Hydro-BAM」と呼ばれる新しいアルゴリズムを開発した。この手法は統計学と機械学習を活用することで、正確さを維持しながら計算コストの節約を実現している。従来の手法でスーパーコンピューターが10万時間を要した計算結果が、数秒から数十秒で得られるという。
共同研究チームはHydro-BAMを使って、遠方の銀河やクエーサーのスペクトルに現れる「ライマンαの森」と呼ばれるパターンを再現することに成功した。ライマンαは遠方天体が強く発する紫外線の輝線で、地球へ到達する途中にある中性水素ガスによって吸収される。このとき、宇宙膨張の影響でライマンαには赤方偏移が働くため、地球から個々の中性水素ガス雲までの距離に応じて異なる波長が吸収されることになる。一つ一つのガス雲が木のように遠方天体のスペクトルを隠した結果、森を通ってきたように様々な波長で吸収が起こっているのがライマンαの森であり、銀河間物質に関する貴重な情報をもたらしてくれるものだ。
「私たちがモデル化しようとしていた銀河間ガス、暗黒物質、中性水素の量のつながりが、階層的にうまく整理されていることがわかったとき、ブレークスルーがもたらされました」(IAC Francesco Sinigagliaさん)。
研究チームは今後、数千のシミュレーション宇宙を作成し、各種銀河サーベイから得られるデータを包括的に分析したいとしている。
〈参照〉
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