機械学習が導き出したブラックホールの成長史
【2022年12月22日 国立天文台】
ほとんどの銀河の中心には、太陽の数百万倍から数十億倍という超大質量のブラックホールが存在すると考えられている。そのようなブラックホールが、どのように作られてどのように成長するのかは、長年の謎だ。米・アリゾナ大学のHaowen Zhangさんをはじめとする国際研究チームは、機械学習を用いて、この謎の解明に挑んだ。
研究チームが構築した手法では、まず超大質量ブラックホールの成長に関わるパラメーターを整理し、そのパラメーター同士のつながりを何パターンも想定することで、プログラムに多数の成長法則を提案させた。それぞれの法則を用いて何十億個ものブラックホールをコンピューターの仮想宇宙で成長させ、最後に仮想宇宙を「観測」して、実際の宇宙で観測されるブラックホールと特徴が一致するかどうかをテストした。
プログラムが提案した何百万もの法則から、既存の観測結果を最もよく説明できる法則が選び出された。それによれば、超大質量ブラックホールの成長は、宇宙誕生から数十億年間が最も活発で、以降はたいへんゆっくりと進む。これは銀河の成長と足並みをそろえているように見える。銀河の中で新たな星が生まれる速度は、宇宙誕生から数十億年でピークに達した後、時間とともに減少して、やがて星形成が停止することが知られていた。
超大質量ブラックホールと銀河は一緒に成長しているという仮説は、数十年前から検討されてきた。今回の研究はその仮説を裏付けるものだが、さらなる疑問も投げかけている。いくら質量が大きくても、ブラックホールのサイズは銀河に比べればはるかに小さい。そのブラックホールが銀河と一緒に成長するということは、スケールが大きく異なるガスの流れが同期していることを意味する。超大質量ブラックホールと銀河がどのように連携を実現しているのかは未解明で、今後の研究の進展が待たれる。
〈参照〉
関連記事
- 2024/12/19 M87のジェットから強力なガンマ線フレアを検出
- 2024/11/01 天の川銀河中心の大質量ブラックホールの観測データを再解析
- 2024/09/06 宇宙の夜明けに踊るモンスターブラックホールの祖先
- 2024/07/16 観測データと機械学習の組み合わせでガンマ線バーストの距離測定精度が大幅向上
- 2024/06/24 「宇宙の夜明け」時代に見つかった双子の巨大ブラックホール
- 2024/04/03 天の川銀河中心のブラックホールの縁に渦巻く磁場構造を発見
- 2024/03/15 初期宇宙の巨大ブラックホールは成長が止まりがち
- 2024/03/08 最も重い巨大ブラックホール連星を発見
- 2024/03/05 超大質量ブラックホールの周りに隠れていたプラズマガスの2つのリング
- 2024/01/24 初撮影から1年後のM87ブラックホールの姿
- 2023/12/22 初期宇宙にも存在したクエーサー直前段階の天体「ブルドッグ」
- 2023/12/08 天の川銀河中心の100億歳の星は別の銀河からやってきたか
- 2023/11/09 銀河中心のガスは巨大ブラックホールにほぼ飲み込まれない
- 2023/10/02 ジェットの周期的歳差運動が裏付けた、銀河中心ブラックホールの自転
- 2023/09/25 銀河中心ブラックホールのジェットが抑制する星形成
- 2023/09/19 クエーサーが生まれるダークマターハローの質量はほぼ同じ
- 2023/09/15 巨大ブラックホールに繰り返し削られる星
- 2023/08/09 電波銀河の巨大ブラックホールに落ち込む水分子
- 2023/07/24 成長中の巨大ブラックホール周辺を電波で観測
- 2023/07/04 129億年前の初期宇宙でクエーサーの親銀河を検出