探査機「みお」、オーロラの源を解く水星の局所的コーラス波動を発見

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探査機「みお」が2021年と2022年に実施した水星フライバイ時に、水星周辺の電磁波を世界で初めて観測し、希薄なプラズマが分布する領域を伝わる電磁波「コーラス波動」の局所的発生を明らかにした。

【2023年9月20日 東北大学大学院理学研究科

2018年10月に打ち上げられたJAXAの水星磁気圏探査機「みお(MMO)」と、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の水星表面探査機「MPO」の2機からなる共同ミッション「ベピコロンボ」は、史上3回目の水星直接探査ミッションとして、2025年12月の水星到着を目指して航行中だ。

「みお」は数百Hz以上の電磁波を調べることができ、水星周辺の未知の電磁環境を世界で初めて明らかにできると期待されている。地球や水星など、太陽系内の惑星周辺の宇宙空間は、主に太陽を起源とするプラズマで満たされており、電磁波はプラズマの加速や減速に関わっていることから、その観測から得られる知見は惑星のプラズマ環境の理解に直結するものとなる。

水星は地球と同じく、固有の磁場とその磁場が支配する領域である磁気圏を持っている。地球では、希薄なプラズマが分布する領域を伝わる電磁波である「コーラス波動」が夜側から昼側の広い範囲で観測される。コーラス波動は低エネルギーの電子を効率よく放射線になるまで加速させたり散乱させたりすることが知られ、急激な放射線増加による人工衛星の障害発生の要因に深く関わっている。一方、水星磁気圏におけるコーラス波動の存在は2000年代から予想されてきたが、水星の磁場は地球に比べて約1%と非常に弱く、実際に発生するのかはわかっていなかった。

「ベピコロンボ」では全6回の水星フライバイが計画されていて、その初回となった2021年10月2日と2回目の2022年6月23日に水星から約200kmの高度を接近飛行した。その際「みお」は、搭載されている電場・プラズマ波動・電波観測装置(PWI)を使って、水星磁気圏の電磁波を世界で初めて観測した。

その結果、朝側(水星から約1200km内)の極めて限られた領域でのみコーラス波動が検出され、予想外の空間局所性が明らかになった。水星磁気圏の朝側に特有のコーラス波動を発生させやすい物理メカニズムがあることを意味している。

2度の水星フライバイ観測時の水星距離、コーラス波動の強度、磁力線曲率の関係
2度の水星フライバイ観測時の水星からの距離、コーラス波動の強度、磁力線曲率の関係。弱い磁力線曲率の領域につながる朝側での観測でコーラス波動が検出された(提供:金沢大学、東北大学、京都大学)

朝側に発生していたコーラス波動発生の要因について、金沢大学の尾崎光紀さんたちの研究チームは、磁力線の特徴と非線形成長理論に基づいて、太陽風によって強く変歪する水星磁場の曲率の影響を評価した。その結果、朝側では磁力線に沿って効率よく電子から電磁波にエネルギーが受け渡され、コーラス波動が発生しやすい条件となることが明らかになった。この効果は、水星環境を模擬した数値シミュレーションでも確認されている。

今回の研究は「観測」「理論」「シミュレーション」の一体的な解析により、局所的なコーラス波動の発生を明らかにしたものだ。さらに、これまで発生メカニズムが十分にわかっていなかった水星のX線オーロラについても、コーラス波動によって散乱された電子が水星表面で衝突してX線が放射され発生していることが示された。

水星でのコーラス波動発生のイメージ図
水星でのコーラス波動発生のイメージ図(提供:金沢大学、水星画像: NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Carnegie Institution of Washington)