太陽フレアの100万倍、超巨大フレアの初期観測に成功
【2024年5月29日 JAXA宇宙科学研究所】
恒星が起こすフレアは、恒星の外層大気で磁場に蓄積されたエネルギーが突発的に解放される爆発現象だ。今月10日前後には太陽で大規模なフレアが連続して発生し、これによって猛烈な磁気嵐が起こって日本などで低緯度オーロラが観測された。
フレアはオーロラ発生の引き金となる一方で、通信障害や人工衛星、有人宇宙活動などへの悪影響というリスクももたらす。こうしたリスクを定量化するためには太陽だけでなく、他の恒星のフレアも観測し研究を進める必要がある。しかし、恒星フレアは規模が大きいほど発生頻度が低くなることもあり、宇宙のいつどこで起こるかわからない恒星フレアの発生を待つのは非効率的だ。
多数の天体の常時監視と個別天体の詳細観測を両立させるため、東京大学の栗原明稀さんたちの研究チームは、国際宇宙ステーションに搭載されている日本の全天X線監視装置「MAXI」とNASAのX線望遠鏡「NICER」を連携させて、恒星フレアなどによる突発的なX線増光を起こした天体を素早くとらえるシステム「MANGA(MAXI and NICER Ground Alert)」を開発し、観測を行ってきた。
このMANGAシステムを利用して、2020年8月17日、太陽フレアより桁違いに大きいフレアを起こすことが知られている近接連星系「りょうけん座RS(RS CVn)型連星」の一つである「おひつじ座UX」のフレア初期の増光がMAXIにより検知され、そのわずか89分後にNICERによる詳細な追観測が行われた。
その結果、MAXIとNICERがとらえたフレアの規模が、過去最大の太陽フレアの100万倍近いものだったことが明らかになった。また、フレアによるエネルギー解放直後のX線エネルギースペクトルの連続成分の情報から、プラズマの温度とX線光度の変化に時間差が生じていることがわかった。これはフレアの際に見られる、磁力線が恒星表面からアーチ状に立ち上がる「フレアループ」内のプラズマ形成の時期をとらえていたことを示唆するものだ。フレアループのサイズは太陽半径の約4倍に達していて、その規模は典型的な太陽フレアスケールの約100倍と見積もられている。
今回のデータの解析からは、フレア発生直後のプラズマが電離非平衡状態で説明可能であることも示されている。研究チームでは今後、「XRISM」等の他のX線観測衛星との同時観測を行い、電離非平衡プラズマの初検出を目指すという。
〈参照〉
- JAXA宇宙科学研究所 研究情報ポータル あいさすGATE:恒星の超巨大フレアを2つのX線観測装置連携で捕捉-プラズマの電離非平衡プロセス調査-
- The Astrophysical Journal:Investigation of non-equilibrium ionization plasma during a giant flare of UX Arietis triggered with MAXI and observed with NICER 論文
〈関連リンク〉
- 全天X線監視装置(MAXI)
- NICER
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