MAXIがとらえた軟X線による新たな全天地図
【2020年5月11日 JAXA】
宇宙のあらゆる方角から地球にやってくる電磁波の強さを描き出した「全天マップ」は、天文学で重要なデータの一つだ。有名な例はNASAの「COBE」や「WMAP」、ESAの「プランク」などの人工衛星で得られた宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の全天マップで、ビッグバンの熱放射の名残であるマイクロ波を全天にわたって観測したものである。CMBのマップは宇宙の成り立ちや性質について様々な情報をもたらし、ノーベル賞の受賞にもつながった。
X線についても、いくつかの全天マップが過去に得られている。軟X線(光子のエネルギーが1keV(キロ電子ボルト)前後のX線)については、1990年代にドイツのX線観測衛星「ROSAT」で全天マップが作られている。しかし、このROSATの全天マップには、遠い宇宙からのX線放射だけでなく、地球の近くに存在する中性原子に太陽風のイオンが衝突してX線が発生する「太陽風電荷交換反応(SWCX)」のX線信号が混ざっていることが、のちの研究でわかっている。
その後、日本の「あすか」「すざく」、NASAの「チャンドラ」、欧州の「XMM-Newton」などのX線観測衛星が打ち上げられたが、これらの衛星のX線望遠鏡は視野が狭く、広い範囲を観測するのには向かないものだったため、軟X線領域での全天マップは長い間ROSATのデータしか利用できない状況だった。
一方、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」では、約90分で地球を1周するISSの動きを利用して宇宙の全方向のX線をモニターする「MAXI(全天X線監視装置)」が2009年から稼働している。今回、JAXA宇宙科学研究所の中平聡志さんたち「MAXI」プロジェクトチームは、2009年8月~2011年8月の2年間にMAXIのX線CCDカメラ「SSC」で観測されたデータを元にした軟X線の新たな全天マップを作成し、公開した。
SSCはX線の検出にCCDを採用しているため、ROSATで使われた比例計数管よりもX線のエネルギー分解能がよく、遠くの宇宙からのX線と地球近辺のSWCXに由来するX線とを区別しやすい。また、ISSの周回に合わせて天空を繰り返しスキャンするため、最終的には1000回分以上の観測データを合成することができ、全天にわたって滑らかなマップを作ることができた。X線CCDで得られた軟X線の全天マップは世界初の成果だ。
今回得られた全天マップでは、ブラックホールや中性子星などの点源のX線天体の他に、赤色で表されるエネルギーの低い、広がりを持ったX線の分布がとらえられている。プロジェクトチームでは、この広がったX線源のうち、とくに天の川銀河の北側に円弧状に広がる「ノース・ポーラー・スパー」と呼ばれる構造のX線エネルギースペクトルを調べた。その結果、この広がったX線源は約100万度の高温プラズマであり、地球近辺でのSWCXによるX線ではないことが確かめられた。
また、今回の全天マップの中央部分には、天の川銀河の中心部や「ノース・ポーラー・スパー」を含む、非常に大きく広がった軟X線の巨大構造が写っている。この軟X線巨大構造はROSATの全天マップにも見られるもので、これとほぼ同じ領域にはガンマ線を放射する「フェルミバブル」と呼ばれる大きな構造も見つかっている。この巨大構造の正体は天の川銀河に分布する大規模な高温プラズマだと考えられているが、詳しい起源はわかっていない。
軟X線巨大構造のうちとくにX線が強い領域が天の川銀河面よりやや北寄りの位置を中心に分布していることから、この巨大構造は地球に比較的近い距離にある超新星残骸が見えているものかもしれないとプロジェクトチームでは考えている。ただし、弱いX線を放射している部分まで含めると、銀河面に対して南北にほぼ対称に広がっているようにも見えるため、天の川銀河の中心ブラックホールが過去に激しい活動をしていた名残だという可能性もあるという。
MAXI/SSCのデータ解析が今後さらに進められ、また次世代のX線観測装置による研究が行われることで、こうした全天に広がるX線構造の起源が解明されることが期待される。
〈参照〉
- JAXA:全天X線監視装置(MAXI)搭載のSSCにより世界で初めてX線CCDによる全天マップの取得に成功
- 天文月報:MAXI/SSCの10年間の稼働実績と0.7‒4 keVのX線全天マップ
- PASJ:MAXI/SSC All-sky maps from 0.7keV to 4keV 論文
〈関連リンク〉
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