ISSで起こる電子の集中豪雨

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国際宇宙ステーションに設置された観測装置CALETによるデータから、ISSが磁気緯度の高い地域を通過する際、数分間にわたり大量の放射線電子が降り注ぐ「電子の集中豪雨」が起こっていることが初めて明らかになった。「オーロラのさざ波」を感じて大気に落とされたバンアレン帯の電子だと考えられている。

【2016年5月19日 早稲田大学JAXA

国際宇宙ステーション(ISS)の「高エネルギー電子・ガンマ線観測装置(CALET)」は、宇宙を飛び交う非常に高いエネルギーの電子やガンマ線、陽子・原子核成分を高精度に観測することで、高エネルギー宇宙線・ガンマ線の起源と加速の仕組み、宇宙線が銀河内を伝わる仕組み、暗黒物質の正体などを解明するための装置である。2015年8月に「こうのとり」5号機でISSに運ばれ、「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームに設置されている。

「きぼう」船外実験プラットフォームとCALET
「きぼう」船外実験プラットフォーム。CALETは赤い位置に取り付けられている(提供:NASA/JAXA)

オーロラ活動が活発だった2015年11月10日、数分間だけではあったが、放射線電子のカウント数が想定の数十倍から数百倍にまで急上昇し、準周期的に強弱の変化を示すという状況をCALETが検出した。

これをきっかけにCALET観測開始から4か月間のデータを分析したところ、11月に検出されたものと同様の「電子の集中豪雨」現象が、ISSが夕方から夜中にかけて磁気緯度(地球の自転軸ではなく地磁気の軸を基準とした緯度)の高い地域を通過するタイミングに繰り返し起こっていることが明らかになった。また、現象が主にバンアレン帯の放射線電子が豊富なときや、オーロラ活動が活発なときに発生していることも明らかになった。

バンアレン帯は赤道上空の高度1万~4万kmに放射線電子が集中する領域、つまり地球大気に落ちなかった電子が宇宙空間で滞留している場所であり、ここから常に地球大気に向かって電子が降り注いでくるわけではない。今回の現象で集中豪雨の雨雲に対応するバンアレン帯から実際に大量の電子が降り注ぐ現象は、オーロラ活動に間接的に刺激されることが引き金となっている。

オーロラを活発にする原因は、真夜中側から地球に押し寄せてくる、電子と陽子が一体となって流れるプラズマの大波だ。大波は地球に近づくと強い地磁気を感じてブレーキをかけるが、その際に電子の流れは明け方、陽子の流れは夕方のほうへと回り込む。明け方側に回り込んだ電子の一部はオーロラやバンアレン帯の一部となり、夕方側の陽子はその場所でプラズマのさざ波(電磁イオンサイクロトロン波)を立てる。

そして、さざ波に出会ったバンアレン帯の電子の多くが、電磁場の揺れを敏感に感じ地球大気に叩き落される。このように、オーロラ活動の余波によって、ISSで電子の集中豪雨が検出されたと考えられている。

「電子の集中豪雨」の起こる状況説明図
「電子の集中豪雨」の起こる状況説明図(バンアレン帯の南北断面は昼側のみ示す)。夜側から押し寄せたプラズマの大波のうち陽子の流れは夕方側に回り込み、電磁イオンサイクロトロン波と呼ばれる「さざ波」を生み出す。このさざ波を敏感に感じる放射線電子が地球大気へ叩き落とされる(提供:国立極地研究所 片岡龍峰さん)

電子の集中豪雨という現象自体は新発見ではなく、これまで主に極軌道衛星によって高緯度地域で観測されてきた「REP(Relativistic Electron Precipitation、相対論的電子降下)」と呼ばれる、バンアレン帯電子の大量落下現象と同じものだと考えられている。電子の集中豪雨の観測は、現在のISSの放射線環境を正しく知る上でも貴重なデータだが、秒単位で乱れる激しい振動を詳しく分析していくことで、オーロラ活動によるさざ波の成り立ちに関する理解が進み、電子の集中豪雨の宇宙天気予報や人工衛星の帯電障害の軽減対策、大気化学の研究などに貢献すると期待されている。

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