宇宙からの直接観測で3テラ電子ボルトまでの高精度電子識別に初成功
【2017年11月7日 早稲田大学】
高エネルギーの宇宙線がどこからきてどのように加速された(高エネルギーを得た)のかはよくわかっておらず、その観測や研究が盛んに行われている。高エネルギー宇宙線のうち最も重要なものの一つが電子だが、1テラ電子ボルトを超えるエネルギーを持つ電子は、太陽系のそばで比較的最近起こった超新星爆発による加速によってしか地球に到達できないことがわかっている。そのような高エネルギーの電子を高精度で観測すると加速源となる天体を直接特定することができるが、そのためにはテラ電子ボルト領域での高精度エネルギー測定、非常に小さい電子流束を検出する感度、同じエネルギーで1000倍以上となる陽子からの識別といったことが必要となる。
また、宇宙空間から宇宙線を直接観測することにより「陽電子異常」と呼ばれる現象が見つかっており、これまで想定されていなかった新たな陽電子源(一次陽電子源)の存在が示唆され、暗黒物質の対消滅もしくは崩壊、パルサー内での電子陽電子対生成とその加速などといった説が議論されている。この陽電子異常の起源探求においては、暗黒物質やパルサーがそれぞれ特徴的なスペクトルを示すため、陽電子源の最高エネルギー領域におけるスペクトル構造をとらえることが鍵となる。
高エネルギー電子・ガンマ線観測装置「CALET」は日本の宇宙線観測における初の本格的宇宙実験として、2015年8月に国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームに設置され、同年10月に宇宙線観測を開始した。CALETは高エネルギー電子の高精度観測に最適化されたユニークな装置で、主となる検出装置「カロリメータ」によって宇宙線のエネルギーや種類、飛来方向を特定することができるという特長がある。
観測開始から2017年6月までの約1年半で、CALETは宇宙からの直接観測として初めて、3テラ電子ボルトまでの結果を取得した。1~3テラ電子ボルトの領域は電子加速源の分布によりスペクトルにカットオフが予測されている部分だが、その領域まで直接観測し限界を更新した結果となる。
CALETの観測結果は、1テラ電子ボルト以下では、国際宇宙ステーションに設置された観測装置「AMS-02」による先行観測の結果と誤差の範囲でよく一致している。測定原理が異なる観測結果が一致することは系統誤差がよく理解されていることの証左であり、貴重な情報だ。同時にCALETの結果は、エラーの範囲であり有意とは言えないものの、AMS-02とは異なりスペクトルの微細構造を示唆しているようにも見える。今後の観測継続と解析の深化が重要だ。
今後CALETはデータをさらに蓄積していくことで検出器の系統誤差を削減していく。さらに、観測エネルギー範囲を拡大し、かつてない精度で20テラ電子ボルトまでの全電子ペクトルを測定することを目指している。この目標を達成すれば近傍の加速源が発見され、暗黒物質の正体に迫ることができるかもしれない。
〈参照〉
- 早稲田大学:国際宇宙ステーション搭載の宇宙線電子望遠鏡(CALET) 宇宙からの直接観測で3テラ電子ボルトまでの高精度電子識別に初めて成功
- Physical Review Letters:Energy Spectrum of Cosmic-Ray Electron and Positron from 10 GeV to 3 TeV Observed with the Calorimetric Electron Telescope on the International Space Station 論文
〈関連リンク〉
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