AIも月にうさぎを見る?なぜ人は月にうさぎを見た?

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AIが月の模様をどのように見立てるかを調べたところ、「うさぎ」とする確率は非常に低いことが示された。人の認識との違いは何か、どのように「月のうさぎ」が広まったのか、興味深い調査結果だ。

【2025年2月5日 JAXA宇宙科学研究所

月は私たちにとって身近な天体で、古くから世界中で親しまれている。日本を含めたアジアには、月の模様を「うさぎ」に見立てる文化があるが、その起源は古く、約2500年前のインドの文献に「月にうさぎがいる」という記述が見られる。一方、ヨーロッパなどの地域では月の模様は「人」や「人の顔」とされ、他の地域にはまた別の見立て方もある。

月とうさぎの結びつき
月とうさぎが結びついた理由として、月の海の模様がうさぎの形状と似ているからという考えのほか、繰り返される月の満ち欠けとうさぎの繁殖性の高さから、両者が共に豊穣のシンボルとなったためという考えもある(提供:JAXA宇宙科学研究リリース)

JAXA宇宙科学研究所・月惑星探査データ解析グループの庄司大悟さんは、「月面の模様がうさぎに似ているのか」という問いに対し、人工知能(AI)を用いてその類似性を評価する研究を行った。

月の見え方(角度)は、時刻や季節、観察場所の緯度によって変化する。そこで庄司さんは、異なる緯度で観察した月の模様の向きが「うさぎ」と「顔」のどちらに見えるかについて、OpenAIが開発したAIモデル「CLIP」に判断させ、月の模様の見え方と緯度との関係について考察した。

テストに使用した月の模様
(上段)1月と7月の異なる緯度と時刻における月の見え方の例。(下段)テストに使用した月の模様。コントラストなどを変化させた白黒画像を作成し、1月の午後8時における各緯度の向きに回転させてAIに判定させた(提供:(上段)NASA/JPL.、(下段)JAXA宇宙科学研究リリース)

AIの判定によると、低い緯度で観察される月の模様ほど「うさぎ」に、高い緯度ほど「顔」に見える傾向が示された。「月のうさぎ」に関する古い記録がインドや中国に、「月面に顔が見える」という古い記録がヨーロッパに存在していることと整合的な結果だ。また、AIは月の模様の中心部分に注目して判断する傾向もみられた。

次に、1000種類の物体を分類できるように訓練された公開データを用いて、CLIPが「うさぎ」と判定した画像が7種類のAIには何に見えるかを調べたところ、月の模様を「うさぎ」と見なす確率は(一部の画像とAIの組み合わせを除いては)非常に低いことが示された。

比較的高い確率で「うさぎ」と見なされた画像と、他の候補物体
CLIP(左)と別のAIモデル「ConvNeXt」(右)が比較的高い確率で「うさぎ」と見なした画像と、1000種類から選ばれた上位10種類の候補物体。様々な犬種やPtarmigan(ライチョウ)、Nematode(線虫)などと判定されている。画像クリックで表示拡大

今回の結果が示すのは、最新のAIであっても、月の模様のようなおぼろげなパターンの分類結果はモデルによって変化するらしいということだ。人間も同様に、月の模様を「うさぎ」と見なしたのは、最初は一部だけだったのかもしれない。そこには単なるパターン認識だけではなく、文化や環境的な側面(宗教、生活様式、生態系など)の影響もあっただろう。その一部の見立てが、コミュニケーションを通じて地域に広まっていったのかもしれない。

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