世界初、月の様々な緯度の影領域で水氷を検出

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月周回衛星「かぐや」の観測データから、月の極域の永久影領域だけでなく、赤道付近を含む様々な緯度の影領域にも水氷が存在することが世界で初めて確認された。

【2025年2月27日 JAXA宇宙科学研究所

月の極域のクレーター内部には太陽光が決して当たらない永久影領域が存在し、そこには水氷が豊富に存在する。月面の水は将来の人類の月面活動において重要な資源であり、月の形成初期から現在までに水環境がどのように変化してきたかを解明することは科学的にも重要な課題だ。

月面極域のクレーター内部の日照シミュレーション
水氷の存在が示されている月面極域のクレーター内部の日照シミュレーション。クレーター内部に終始太陽光の当たらない永久影が見られる(提供:JAXA月極域探査機(LUPEX)プロジェクト

理論的には月の極域以外の様々な緯度にある低温の影領域にも水が存在すると予測されている。月の表面で蒸発した水は大きく移動して低温の影領域で一時的に多く吸着されると考えられているが、様々な緯度の影領域における水の存在やその分布や状態などはこれまでよくわかっていなかった。

JAXA宇宙科学研究所の豊川広晴さんたちの研究チームは、水の存在状態などを解明し、月面での水の移動プロセスの理解を進めるため、月周回衛星「かぐや」が取得したデータのうち、水の存在を調べる上で重要な近赤外線スペクトルデータを調べた。このデータは他の探査機が取得したものと比べて低ノイズ・高波長解像度であり、そのおかげで光量の少ない影領域での水分布調査が可能になった。

豊川さんたちが様々な緯度・経度・地質的背景の60か所の領域で取得されたデータを解析したところ、全領域において様々な時刻の影領域で水氷の存在を示すスペクトルの特徴が確認された。月の極域だけでなく赤道付近を含む様々な緯度の影領域にも水氷が存在することを、世界で初めて確認した成果である。

今回調査され水氷が検出された全領域
(青い四角)今回調査された月面の領域(提供:JAXA宇宙科学研究所リリース、以下同)

水氷の吸収特徴を示した影領域データの平均スペクトル
水氷の吸収特徴を示した影領域データの平均スペクトル。水氷の吸収特徴である1.25μm付近と1.5μm付近での吸収が確認できる

観測されたスペクトルに月面の主要鉱物の吸収特徴が見られないことから、氷の霜が月面の影領域を覆っているか、氷が月面上を浮遊していると示唆される。また、氷の量は1平方メートル当たり0.1g~1g程度と見積もられている。

推測される水氷の存在状態のイメージ図
観測スペクトルの形状から推測される水氷の存在状態のイメージ図。(a)氷の霜層が影領域を覆っている場合、(b)水氷が月面上を浮遊している場合

今回の研究成果により、月面で移動する水の起源やその移動メカニズムなど、月における水環境の進化の理解が大きく進むと期待される。今後の月探査や有人活動は、中低緯度域の水の存在も考慮したものになるだろう。