月着陸船「アテナ」、月面にタッチダウン

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日本時間3月7日午前2時30分ごろ、米国の月着陸船「アテナ」が月面に到達した。通信はできているものの、アテナの姿勢が直立していない可能性があり、正確な着陸地点などの確認が進められている。

【2025年3月7日 NASA

2月28日(日本時間、以下同)に打ち上げられた米・インテュイティブ・マシーンズ(Intuitive Machines)社の月着陸船「アテナ」(Athena、アシーナとも)は、順調に月までの飛行を続け、3月5日に月を周回する軌道へ入った。翌6日、着陸の7時間ほど前に月面へ降下する軌道に入り、飛行高度を約100kmから10kmほどまで下げた。

「アテナ」がとらえた着陸地点「ムートン山」周辺
アテナが月周回軌道上から、日の出のタイミングでとらえた着陸地点「ムートン山」周辺(提供:Intuitive Machines

7日、着陸の2時間半ほど前から、NASA Videoや、アテナに搭載された日本の小型探査車「ヤオキ」を開発した株式ダイモンのCEO中島紳一郎さんとVTuber「星見まどか」さんが、アテナの着陸の様子をライブ配信した。

配信では、自律航行に入ったアテナが誘導航法制御システムを使って着陸地点に向かって降下する様子が高度や速度などの表示とともに紹介された。しかし、着陸予定時刻になっても管制室から着陸成功の報告はなく、配信は終了してしまった。

その約3時間後に行われたプレスカンファレンスやNASAブログなどを通じて、アテナが7日午前2時30分ごろに月面に到達したことが発表された。インテュイティブ・マシーンズ社CEOのSteve Altemusさんは、まだ全てのデータが揃っていないので正確なことは言えないとしたうえで、「アテナが目指した『ムートン山(Mons Mouton、モンス・ムートン)』に向かったことはまちがいなく、おそらく着陸地点の近くにいると思われるが、正常な姿勢で着陸したとは考えていない。また着陸地点も詳しくわかっていない」と話した。約1年前に月面に横倒しで軟着陸した同社の着陸船「オデュッセウス」を思い起こした人もいるかもしれない。

直立して着陸できなかったかもしれない理由として、同社の最高技術責任者で管制を行っていたTim Crainさんは、アテナが降下を開始した後に、高度を計るレーザーシステムにノイズが見られたことを指摘している。アテナによる着陸領域内のクレーターの認識結果が予想以上に良いものだったことから、ムートン山に近づくにつれてノイズが消えることを管制チームは期待していたが、下降からタッチダウンまでノイズは残り続けた。このことは、アテナが月面までの距離を認識できないまま降下、着地した可能性を示唆している。

一方でアテナとは通信が保持されていて、日本の小型探査車「ヤオキ」を含む、搭載されている全てのペイロードが正常に起動し、通信が可能であることが確認されている。しかし、太陽電池パネルが正しい方向を向いていないとみられ、本来の発電量に至っていない。そのため、今後電力不足により通信が途絶えたり、探査などの月面活動に制限が出る可能性もある。インテュイティブ・マシーンズ社では、NASAの月周回探査機「ルナー・リコナサンス・オービター」が上空からピンポイントでとらえた画像を含め、あらゆるデータをもとにアテナの状態を明らかにするために作業を進めている。

Crainさんは「(着陸地点から50m以内という)目標範囲の外にアテナが着陸したことを“少し”残念に思いますが、人類が月に着陸船を送るたびに、それが素晴らしい一日となります」と印象的な言葉を述べたほか、宇宙を愛し宇宙にたずさわる自身が普段見慣れている月面と大きく異なる南極の素晴らしい写真をアテナが取得したことにも触れるなど、アテナの現状にとらわれることなく、前向きな姿勢を見せていた。

「アテナ」がとらえた南極域
アテナが月周回軌道上からとらえた南極域(提供:Intuitive Machines

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