大量のガスを一気に呑みこむ小さなブラックホール

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ひじょうに強いX線で光る4つの天体をすばる望遠鏡が観測し、ブラックホールがガスを一気に呑みこむ「超臨界流」の反動により大量のガスを放出しているという証拠が得られた。

【2015年6月5日 すばる望遠鏡

天の川銀河から近くの銀河では、銀河中心から離れた位置に太陽の100万倍以上も強いX線放射が検出されることがある。その大部分は恒星とブラックホールの連星であると考えられているが、天の川銀河内で見つかっている連星ブラックホールの質量はせいぜい太陽の20倍程度なのに対して、超高光度X線源はこれらのおよそ100倍ものX線を放つ。

これほど強力なX線放射の理由として、(1)太陽の1000倍以上の質量をもつブラックホールであること(2)太陽の100倍以下の小さなブラックホールが理論限界を越えて大量のガスを呑みこむ「超臨界流」が起こっている、という2つの説が提唱されてきた。

HSTで撮像した、矮小銀河ホルムベルクIIにある超高光度X線源X-1(矢印)の周辺の多色合成画像
ハッブル宇宙望遠鏡で撮像した、おおぐま座の方向約1100万光年の距離にある矮小銀河ホルムベルクIIにある超高光度X線源「X-1」(矢印)の多色合成画像。周囲のガスが強力なX線で電離されて赤くなっている(提供:ロシア特別天体物理観測所/ハッブル宇宙望遠鏡)

ロシア特別天体物理観測所と京都大学の研究グループは、4つの銀河にある超高光度X線源を、すばる望遠鏡に搭載された微光天体分光撮像装置「FOCAS」で4夜にわたり観測した。その結果、4天体すべてのスペクトルに、加速された高温の「風」がブラックホール周囲の降着円盤あるいは伴星から吹き出していることを示す共通の特徴が見られた。

これらの特徴は、天の川銀河内の特異天体「SS 433」でも見られる。SS 433は太陽の10倍以下の質量のブラックホールからなるX線連星と考えられていて、常時放出される高速ジェットの観測から、エディントン限界光度(*1)に相当する以上の量のガスが流れ込む「超臨界流」が起こっていることが確実な唯一の天体だ。

研究グループでは今回の観測結果について、小さなブラックホールに大量のガスが一気に流れ込む反動で、一部のガスが降着円盤風として放出されている証拠であると結論づけた。さらに、これらと同程度の明るさの超高光度X線源はすべて同種族の天体であり、SS 433と同類だろうと推論している。ブラックホールが小さくてもガスを呑みこむ勢いにより、明るいX線を放射すると解釈できるのだ。

超高光度X線源(上)とSS 433(下)の構造および視線方向
超高光度X線源(上)とSS 433(下)の構造および視線方向。ブラックホール近くの降着円盤は超臨界流となっており、内部から強いX線が放射されている。途中から、大量のガスが降着円盤風として吹き出しており、そこからヘリウムイオンや水素原子の輝線が観測される(提供:京都大学)

超臨界流は、宇宙初期において銀河の中心にある超巨大質量ブラックホールを短時間で形成するための有力なメカニズムの一つと考えられており、近傍宇宙でこのような現象が見つかったことは、宇宙の形成史を理解するうえでもひじょうに意義が大きい。

超高光度X線源の中のブラックホールが、SS 433と同様に太陽の数倍程度の質量なのか、それとも数十倍程度なのかといった問題がまだ残されており、今年度打ち上げ予定の「ASTRO-H」など将来のX線天文衛星による謎の解明が待たれる。

1: 球対称の場合、天体の光度がある値を越えると光の圧力が重力を上回り、ガスが落ちることができなくなる。

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