大質量星形成領域で、ジェット駆動のバウショックを観測
【2016年6月14日 国立天文台VERA】
「大質量星形成は低質量星形成と同じ仕組みなのか」という疑問は天文学における大きなテーマだ。しかし、大質量星は低質量星に比べて数が少なく、これまで観測的研究があまり進んでいなかった。
鹿児島大学のRoss A. Burnsさんたちの研究チームは、大質量星形成と低質量星形成の関係を明らかにするため、国立天文台を中心とした国内の電波望遠鏡ネットワーク「VERA」を用いて、オリオン座方向の大質量星形成領域「S255」を観測した。VERAでは遠く離れた電波望遠鏡で同時観測を行うことにより、口径の大きい電波望遠鏡を使うのと同様の性能が得られ、天体の距離と運動を高精度に測定することができる。
2008年11月から2010年8月にかけて行った12回の観測から、S255の大質量原始星の周りでアフトフロー(物質の流出)とU字形のメーザー分布が得られた。このU字形のメーザー分布は、低質量星形成領域の研究でよく用いられる「ジェット駆動バウショック(超音速で運動している物体が亜音速に減速される場所で発生する、U字形の衝撃波)」モデルを使って上手く再現できることもわかった。
今回の観測結果は、低質量星形成領域で見られるジェット駆動のアウトフローが大質量星形成領域でも見られることを示す重要なものだ。今後、VERAで他の大質量星形成領域も観測することで、大質量星形成と低質量星形成に関する個々の物理過程の共通点・相違点が解明されることが期待される。
〈参照〉
- 国立天文台VERA: VERAが大質量星形成の理解に貢献 ~S255でジェット駆動のバウショックを観測~
- MNRAS: H2O masers in a jet-driven bow shock: episodic ejection from a massive young stellar object 論文
〈関連リンク〉
- 国立天文台VERA: http://veraserver.mtk.nao.ac.jp/
- アストロアーツ 投稿画像ギャラリー: Sh2-255
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