大質量原始星候補から噴出する水蒸気ジェットの変動を追跡
【2015年6月17日 国立天文台VERA】
国立天文台の元木業人さんを中心とした研究チームは、電波望遠鏡ネットワークVERA(ベラ)と北海道大学苫小牧11m電波望遠鏡を用いた長期モニター観測により、大質量原始星候補「G353.273+0.641」から吹き出す双極ジェットの時間変動を詳細にとらえることに成功した。
さそり座の方向に位置するG353.273+0.641は太陽の10倍程度の質量を持つ非常に若い大質量原始星候補で、同チームの研究から非常に高速の双極ジェットを吹き出していることが知られている。
研究チームでは2008年から2012年にわたり、VERAと北海道大学苫小牧11m電波望遠鏡を組み合わせ、ジェットに付随する水メーザーの長期モニターを行って時間変化の様子を追った。
その結果、G353.273+0.641に付随するジェットが不連続に、繰り返し吹き出していることが明らかになった。吹き出しは4年間で4度観測され、その度にジェットの根元付近の構造が変化していることが確認された。また、中心星の近傍100au(約150億km)程度の領域で定常的に水メーザージェットの加速が起こっていることも判明した。
大質量原始星からのジェットでこのような間欠的な時間変動を直接とらえたのは世界初となる。今後の詳細観測によってジェットの駆動・加速機構や星周環境への影響、ジェットの駆動源となる降着流の性質などについて理解が進むと期待される。
〈参照〉
- 国立天文台VERA: 大質量原始星候補G353.273+0.641から吹き出す水蒸気ジェットの時間変動に迫る
- Publications of the Astronomical Society of Japan: Accelerating a water maser face-on jet from a high mass young stellar object 論文
〈関連リンク〉
- 国立天文台VERA: http://veraserver.mtk.nao.ac.jp/
- 苫小牧宇宙電波観測所: http://astro3.sci.hokudai.ac.jp/~sorai/tro/tro01.html
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