天の川銀河中心方向、いて座D HIIまでの距離の高精度計測に初成功
【2018年3月13日 国立天文台VERA】
天の川銀河の中心方向には、超大質量ブラックホール「いて座A*」や巨大な星形成領域「いて座B2」など多くの天体が密集している。これらのうち「いて座D」と呼ばれる天体には「いて座D HII」という電離水素領域が存在しているが、このいて座D HIIが天の川銀河のどこに位置しているかは「銀河の中心近く」「銀河中心の向こう側」「銀河中心に対して手前」など20年以上にわたり研究者の意見が分かれていた。
東京大学/国立天文台の酒井大裕さんたちの研究チームは、国立天文台の電波望遠鏡ネットワークVERAを用いて2008年5月から2011年2月にかけての計9回、いて座D HII領域の観測を行った。そして年周視差計測(三角測量)の結果から、いて座D HII領域までの距離を約6500光年から9500光年と求め、高精度な値を見積もることに初めて成功した。
私たちから天の川銀河の中心までの距離は約2万6000~2万8000光年と見積もられている。つまり、いて座D HII領域は銀河の中心よりもずっと手前にあることになり、天の川銀河の渦巻き腕の一つである「たて・ケンタウルス腕」に位置しているらしいという驚くべき結果となった。
VERAは、岩手、鹿児島、小笠原、石垣の4か所にある電波望遠鏡を干渉計の技術で組み合わせて直径2300kmの超大口径電波望遠鏡として利用し、天の川銀河内の電波天体の距離と運動を観測することで銀河の3次元立体地図を作成するプロジェクトである。2022年中の観測完了を目指して今後も計測を進めていく計画で、VERAにより天の川銀河の正確な姿や形が明らかになることが期待される。
〈参照〉
- 国立天文台VERA:いて座D HII領域の距離論争が、VERAの精密距離測定でついに決着!
- Publications of the Astronomical Society of Japan:Trigonometric parallax measurement of a water maser source toward the Sgr D HII region 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2023/07/24 成長中の巨大ブラックホール周辺を電波で観測
- 2020/12/03 位置天文学の高精度化を実現、VERAプロジェクト20年の成果
- 2020/08/05 大質量原始星の周辺は複雑な環境
- 2019/08/30 研究体験の高校生グループ、新たな電波星を発見
- 2019/01/17 大質量星形成領域の距離を精密に測定、原始星の存在も確認
- 2017/10/10 電子情報通信学会マイルストーンに選定、国立天文台の「高感度電波望遠鏡技術」と「スパコン GRAPE」
- 2017/02/03 世界初、一酸化ケイ素の4輝線同時VLBI観測
- 2016/03/30 高エネルギーガンマ線を放出する、超大質量ブラックホール候補天体の大規模探査
- 2015/06/17 大質量原始星候補から噴出する水蒸気ジェットの変動を追跡
- 2015/05/28 大質量星形成領域が銀河面から遠ざかる様子をVERAで観測
- 2015/04/22 「ペルセウス腕」、天の川銀河の平均回転速度より遅かった
- 2015/03/23 太陽系の回転速度をVERAが精密に測定
- 2015/01/21 VERAプロジェクトでミラ型変光星の周期光度関係を高精度に確立
- 2014/11/26 日韓合同VLBI観測網で44GHzメタノールメーザーを初検出
- 2014/11/04 VERAとアルマで迫る、水メーザーバーストの発生メカニズム
- 2014/09/05 活動銀河M87のガンマ線フレア、電波でも増光を観測
- 2014/03/26 大質量星誕生につながる電波源の固有運動を測定
- 2014/03/04 生まれたての大質量星の周りに水蒸気のガス円盤
- 2012/10/02 銀河系観測「VERA」10周年 6日奥州市で記念講演
- 2011/09/20 天の川銀河内の変光星600個の3次元位置を正確に決定