太陽のスピキュールの起源
【2017年6月29日 NASA】
太陽の表面からは、1000万ものジェットが一斉に噴き出すことがある。その速度は最高で秒速100kmほどになり、崩壊するまでに約1万kmもの距離まで到達する。
このジェットは「スピキュール」と呼ばれ、太陽表面に無数に見られるが、どのように形成されるかについては謎だった。スピキュールはつかの間の現象で、誕生から崩壊までたった5~10分ほどしかなく観測が難しいからだ。また、地上からの観測は大気の影響を受け像がぼんやりしてしまうという問題もある。
米・ロッキードマーティン太陽天体物理学研究所のJuan Martinez-Sykoraさんたちの研究チームは、NASAの太陽観測衛星「IRIS」とスペイン領カナリア諸島ラ・パルマの太陽望遠鏡「SST(Swedish 1-meter Solar Telescope)」による観測データに基づく約1年がかりのコンピューターシミュレーションで、スピキュールの起源を初めて示した。
研究チームは約10年間にわたってスピキュール形成に関するモデル構築を目指してきたが、そのなかで、問題の鍵が磁場の影響を受けない中性粒子にあることに気がついた。それまでの研究では問題を簡略化するため、完全に電離したプラズマとしてモデルを作っていたのだ。
中性粒子は、節くれだった磁気エネルギーのこぶが高温プラズマの中を上昇して彩層へと到達するための「浮力」を提供する。そして遠く運ばれた磁力線が元に戻るときにプラズマやエネルギーが放出され、この激しい現象からスピキュールが誕生する。「通常、磁場は帯電した粒子としっかり結合しています。帯電した粒子だけを扱ったモデルでは、磁場はくっついたままで、太陽の表面から上昇することができませんでした。しかし、中性粒子を加えると、磁場は自由に動けるようになったのです」(Martinez-Sykoraさん)。
この新しいモデルにより、太陽大気の加熱や太陽風について鍵を握っていると考えられている強い磁気を帯びた波「アルヴェーン波」が自然に発生することがわかり、エネルギーが太陽大気中をどのように移動するのかも明らかになっている。今回の研究結果は、スピキュールが太陽大気へのエネルギー供給において、プラズマの流れやアルヴェーン波の発生を通じて重要な役割を果たしている可能性を示唆するものである。
〈参照〉
- NASA:Scientists Uncover Origins of the Sun's Swirling Spicules
- Science:On the generation of solar spicules and Alfvénic waves 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2024/10/23 天体望遠鏡とHα太陽望遠鏡の1台2役「フェニックス」新発売
- 2024/04/02 太陽の極は赤道に比べて7℃暖かい、「傾圧不安定波」の観測から判明
- 2023/12/22 2024年1月1日 初日の出
- 2023/12/11 100年前の黒点観測記録が太陽活動の長期変動の研究に貢献
- 2023/09/06 インド、初の太陽観測衛星の打ち上げに成功
- 2023/06/29 太陽の熱対流が磁場をねじり、フレアを起こす
- 2023/05/10 太陽フレアが生命の材料を作った可能性
- 2023/01/16 太陽黒点を自動で数える新手法
- 2023/01/11 一人で40年、世界屈指の安定性を誇る太陽観測記録
- 2022/11/22 実験室でミニチュア太陽フレアを生成
- 2022/09/20 太陽磁場の反転現象「スイッチバック」の謎を解明
- 2022/08/17 ガイアのデータで描く太陽の未来
- 2022/07/08 太陽コロナを効率的に加熱するマイクロフレア
- 2022/03/24 太陽型星では大気の加熱メカニズムは普遍的
- 2022/03/07 太陽コロナの特殊なイオンを実験室で生成
- 2022/03/03 太陽表面の乱流運動を深層学習でとらえる
- 2021/12/24 1957-8年、太陽活動が観測史上最大級の時期のオーロラ国内観測記録
- 2021/12/15 若い恒星のスーパーフレアに伴う物質の噴出を初検出
- 2021/09/27 過去の記録からダルトン極小期の太陽活動が明らかに
- 2021/09/22 「富岳」、太陽の自転周期を再現することに成功