銀河衝突で作る星の材料、衝撃波で作られる水素分子
【2017年9月11日 国立天文台野辺山宇宙電波観測所】
銀河同士が衝突すると、お互いに重力で影響を及ぼしあい、形が変わったり渦巻型から楕円型に変化したりするなど銀河の性質に大きな影響が及ぶ。
さらに、こうした相互作用銀河では衝突していない銀河に比べて、恒星が非常に多く誕生しているものがある。その原因ははっきりしていないが、恒星は分子ガスが集まることにより作られるので、銀河の衝突の影響が分子ガスにも及んでいるはずだと考えられる。
これまでの観測は、すでに恒星をたくさん作っている状態の、つまり衝突がかなり進んだ相互作用銀河に偏っており、恒星が形成された影響で分子ガスの性質が変わってしまった可能性があるため、原因を調べるには適していなかった。
国立天文台野辺山宇宙電波観測所の金子紘之さんたちの研究グループは銀河衝突によって分子ガスがどのような影響を受けているかを調べるため、恒星がまだあまり作られていない衝突し始めの相互作用銀河の分子ガスを野辺山45m電波望遠鏡で観測した。
米・国立電波天文台のVLA(超大型干渉電波望遠鏡群)が取得した水素原子ガスのデータと組み合わせ、銀河の中で水素分子ガスの質量が水素ガス全体(水素原子ガス+水素分子ガス)の質量のうちどれくらいの割合を占めているかを調べたところ、衝突し始めの相互作用銀河では衝突していない銀河に比べて分子ガスの割合が高いことが示された。相互作用によって水素原子ガスが減り水素分子ガスが増えたことになる。
次に、銀河のどこで変化が起こっているのかを調べるため、全水素ガス中に占める分子ガスの割合の空間分布を調べたところ、相互作用銀河では銀河全体で分子ガスの割合が高かったり、複雑な分布になっていたりする様子が見られた。衝突していない銀河では典型的に、銀河の中心から外に行くにつれて分子ガスの割合が減っていく様子が見られるのとは異なっており、衝突によって銀河全体に対して影響が及んだことを示している。
さらに詳しく場所ごとの水素ガスの総量と分子ガスの割合の関係を調べると、これまでに知られていなかった「水素ガスの総量が多い場所ほど分子ガスの割合が小さくなる」という特徴をもつ銀河が相互作用銀河の中に見つかった。この結果は、「銀河衝突によって衝撃波が発生して銀河全体に広がり、その衝撃波が水素原子ガスを圧縮することで効率的に水素分子ガスへと変換させ、星が多く誕生する」と考えることで説明できるという。
衝突し始めの相互作用銀河を空間的に分解して分子ガスを観測したことで、こうした銀河では銀河全体にわたって分子ガスが原子ガスから効率よく作られていること、その原因は衝撃波によるものであることが初めて明らかになった。これまでは「銀河衝突により分子ガスが濃くなって効率よく恒星が誕生する」というシナリオが一般的だったが、今回の結果からは「恒星の素となる分子ガスが多くなったために形成される恒星の数も多くなる」というシナリオも導き出されることになる。銀河衝突によって星が数多く誕生する原因の解明に向け、重要な結果といえる。
〈参照〉
- 国立天文台野辺山宇宙電波観測所:銀河の衝突で作る星の材料
- PASJ:Properties of molecular gas in galaxies in the early and mid stages of interaction. II. Molecular gas fraction 論文
〈関連リンク〉
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