半世紀以上の観測で判明、静かな太陽は変わらない
【2017年11月17日 国立天文台 野辺山宇宙電波観測所】
太陽の活動は約11年の周期で活発な時期と静かな時期を繰り返す。その活動度を知る指標として黒点数の増減を調べるという方法があるが、太陽フレアやコロナ質量放出といった爆発的な現象は黒点のない領域でも発生することがあり、太陽活動の状況を知るためには黒点数の記録だけでは不十分だ。また当然ながら、黒点は曇りや雨などの日には観測できない。
太陽から放射される電波、特にマイクロ波(波長0.1mm~1m(周波数0.3GHz~3000GHz)の電磁波)は、太陽フレアを発生させるような磁場の領域があれば強度が増加し、太陽フレア時には強烈なマイクロ波が放射される。マイクロ波は曇りや雨でも観測できるという強みもあることから、太陽活動の指標として世界中で利用されており、日本では1957年6月から現在まで観測を継続している。
国立天文台チリ観測所の下条圭美さんたちの研究チームは、この60年の観測期間中に太陽が静かになる時期(極小期)5回分のうち、最も静かになる月をマイクロ波観測データから決め、その月の平均マイクロ波強度を観測周波数ごとに計算した。すると、5回の極小期のスペクトルが、ほとんど同一線上に並んでいることが明らかになった。極小期のマイクロ波スペクトルは、太陽周期が異なっても全く変わらないことを示す結果である。
極小時のスペクトルが変わらないということは、太陽周期ごとに黒点の数がどんなに異なっても、静かになれば太陽磁場の状態が前の太陽周期の静かな時期と同じになることを意味している。さらに、黒点の磁場を太陽内部で生成するメカニズム「グローバルダイナモ」が、より局所的な磁場生成メカニズム「ローカルダイナモ」にあまり影響を及ぼさない事を示唆する結果でもある。このような示唆は、見ることができない太陽内部での磁場の生成・増幅を考える上で重要な鍵といえる。
同一観測手法によるデータの質が揃った長期観測データは、黒点観測以外の太陽観測では珍しく、黒点数以外のデータで太陽周期を超える時間スケールの傾向の発見は非常に意義深いものだ。今後も太陽マイクロ波モニター観測を継続し、世紀単位で太陽の長期変動がわかれば、さらに新たな知見が得られると期待される。
〈参照〉
- 国立天文台野辺山宇宙電波観測所:半紀をこえる観測で初めてわかった!「静かな太陽は変わらない」
- The Astrophysical Journal:Variation of Solar Microwave Spectrum in the Last Half Century 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2024/10/23 天体望遠鏡とHα太陽望遠鏡の1台2役「フェニックス」新発売
- 2024/04/02 太陽の極は赤道に比べて7℃暖かい、「傾圧不安定波」の観測から判明
- 2023/12/22 2024年1月1日 初日の出
- 2023/12/11 100年前の黒点観測記録が太陽活動の長期変動の研究に貢献
- 2023/09/06 インド、初の太陽観測衛星の打ち上げに成功
- 2023/06/29 太陽の熱対流が磁場をねじり、フレアを起こす
- 2023/06/05 太陽活動に伴う宇宙線量の変化にドリフト効果が大きな役割
- 2023/05/10 太陽フレアが生命の材料を作った可能性
- 2023/05/02 日本の歴史資料から読み解く太陽活動の周期性
- 2023/01/16 太陽黒点を自動で数える新手法
- 2023/01/11 一人で40年、世界屈指の安定性を誇る太陽観測記録
- 2022/11/22 実験室でミニチュア太陽フレアを生成
- 2022/09/20 太陽磁場の反転現象「スイッチバック」の謎を解明
- 2022/08/17 ガイアのデータで描く太陽の未来
- 2022/07/08 太陽コロナを効率的に加熱するマイクロフレア
- 2022/03/24 太陽型星では大気の加熱メカニズムは普遍的
- 2022/03/07 太陽コロナの特殊なイオンを実験室で生成
- 2022/03/04 第4回天文遺産に金星太陽面通過観測地と太陽黒点スケッチ群
- 2022/03/03 太陽表面の乱流運動を深層学習でとらえる
- 2021/12/24 1957-8年、太陽活動が観測史上最大級の時期のオーロラ国内観測記録