大質量星が過剰な星形成領域「かじき座30」
【2018年1月11日 University of Oxford】
大質量星は内部での元素合成や強烈な放射エネルギー、超新星爆発による元素拡散や衝撃波、中性子星やブラックホールの形成など様々な形で周辺に大きな影響を及ぼす。とくに初期宇宙では、その強い放射によって宇宙に満ち溢れていた中性水素ガスを電離し、宇宙の暗黒時代を終わらせるという重要な役割を果たしたと考えられている。
宇宙における大質量星の役割を定量的に理解するためには、大質量星がどのくらいの割合で誕生するかを知る必要があるが、近傍宇宙の大質量星は質量の小さい星に比べて圧倒的に少なく、正確な割合の見積もりは非常に難しい。従来の研究では、太陽の10倍を超える質量の星として生まれる確率は全体の1%以下であると予測されている。
英・オックスフォード大学のFabian Schneiderさんたちの研究チームはヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTで行われている「VLT-FLAMES タランチュラ星雲サーベイ(VFTS)」の一環で、約16万光年彼方の矮小銀河である大マゼラン雲に存在する、活発な星生成領域「かじき座30」(タランチュラ星雲)内の大質量星約1000個を観測した。かじき座30は近傍宇宙における最大の星形成領域で、これまでに発見されている最大級の質量の星々も存在している。
研究チームは統計的、理論的手法などによってかじき座30に存在する大質量星の質量を決定し、太陽の15倍から200倍の質量を持つ約250個の星の分析結果を利用して、かじき座30で誕生する星の初期質量関数(生まれる星の質量頻度分布)を調べた。そして、これまでで最も正確な大質量星の初期質量関数が導き出され、大質量星が予測をはるかに超える数誕生し存在することが示された。
「大質量星の真の数に驚いただけでなく、初期質量関数が太陽200個分の質量までサンプリングされたことにも驚きました。太陽質量の200倍も重い星の存在はこれまで大きな議論の的でしたが、今回の研究で、誕生時の最大質量は太陽の200倍から300倍らしいことが示されました」(ベルギー・ルーヴェン・カトリック大学 Hugues Sanaさん)。
「この研究成果は宇宙の様々な現象の理解に大きな影響を及ぼします。これまで考えられてきた数より70%も多く超新星が存在することになり、化学収率(理論から予測される最大量に対する実際に得られる物質の比率)は3倍に跳ね上がりますし、大質量星の集団が放つ電離放射も4倍近くになる可能性が出てきます。また、ブラックホールの形成率も1.8倍まで増えるので、重力波を放つような連星ブラックホール同士の合体現象の増加にもつながると考えられます」(Schneiderさん)。
〈参照〉
- オックスフォード大学:Weighing massive stars in nearby galaxy reveals excess of heavyweights
- Science:An excess of massive stars in the local 30 Doradus starburst 論文
〈関連リンク〉
- ヨーロッパ南天天文台
- アストロアーツ 投稿画像ギャラリー:タランチュラ星雲(NGC 2070)
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