ブラックホールの自転が高速ジェットの形成に与える影響
【2018年1月19日 国立天文台】
多くの銀河の中心には、太陽の数百万倍以上もの質量を持つ超大質量ブラックホールが存在している。ブラックホールは光を含めすべての電磁波を吸収するため、その姿を直接見ることはできないが、ブラックホールに向かって落ち込みながら超高温になる物質がブラックホールの周囲に作る降着円盤からの光は見える。
降着円盤を持つブラックホールは電波を放つ「クエーサー」として観測される。なかでも、全体の1割程度しか存在していない強い電波を放つクエーサーは、降着円盤内の物質の一部がブラックホールに落ち込まず、ブラックホールの両極から高速のジェットとして吹き出していると考えられている。しかし、どのようにジェットが形成されるのかはまだ解明されていない。
国立天文台のAndreas Schulzeさんたちの研究チームは8000個近くのクエーサーについて、ブラックホールの周囲と降着円盤から放射された酸素イオンの光の強さを測定した。その結果、強い電波を放つクエーサーはそうでないものに比べて酸素イオンの光が平均で1.5倍ほど強いことが明らかになった。酸素イオンの光の強さは中心にあるブラックホールの自転速度と関係があるため、今回の結果はブラックホールの自転がジェットの形成に重要な要素である可能性を示すものといえる。
「この研究結果は、電波が強いクエーサーと弱いクエーサーの違いがブラックホールの自転だけで決まっているという意味ではありません。しかし、自転を抜きに考えることができないことは確かです。宇宙の遠方から届くブラックホールという怪物の声の大きさを、その自転速度が決めている可能性があるのです」(Schulzeさん)。
〈参照〉
- 国立天文台:ブラックホールの自転は電波放射を強めるか
- The Astrophysical Journal:Evidence for Higher Black Hole Spin in Radio-loud Quasars 論文
関連記事
- 2024/09/30 ブラックホールの自転による超高光度円盤の歳差運動を世界で初めて実証
- 2024/09/19 鮮やかにとらえられた天の川銀河の最果ての星形成
- 2024/09/05 ブラックホール周囲の降着円盤の乱流構造を超高解像度シミュレーションで解明
- 2024/08/02 X線偏光でとらえたブラックホール近傍の秒スケール変動
- 2024/06/03 天の川銀河内初、高速ジェットと分子雲の直接相互作用が明らかに
- 2024/04/22 最も重い恒星質量ブラックホールを発見
- 2023/12/01 ガンマ線と可視光線偏光の同時観測で迫る光速ジェット
- 2023/10/02 ジェットの周期的歳差運動が裏付けた、銀河中心ブラックホールの自転
- 2023/09/25 銀河中心ブラックホールのジェットが抑制する星形成
- 2023/08/04 合体前のブラックホールは決まった質量を持つ?
- 2023/06/12 プラズマの放射冷却で探るM87ジェットの磁場強度
- 2023/05/01 超大質量ブラックホールの降着円盤とジェットの同時撮影に成功
- 2022/12/06 M87ブラックホールのジェットがゆるやかに加速する仕組み
- 2022/12/01 ブラックホールを取り巻くコロナの分布、X線偏光で明らかに
- 2022/11/28 クエーサーから絞り出されるジェットの根元
- 2022/11/25 銀河中心核のブラックホールを取り巻く塵のリングを検出
- 2022/11/10 「一番近いブラックホール」の記録更新
- 2022/10/24 観測史上最強規模のガンマ線バーストが発生
- 2022/10/19 中性子星の合体で放出された、ほぼ光速のジェット
- 2022/07/25 「ブラックホール警察」、隠れたブラックホールを発見