宇宙の極低温下でガスが凍りつかない理由

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実験室に宇宙空間を再現した研究から、光の届かない冷たい宇宙空間に漂う氷の微粒子から分子がガスの状態で放出される仕組みが世界で初めて明らかにされた。様々な分子が極低温の環境下で凍りつかずにガスの状態で存在できる理由を示す成果だ。

【2018年2月14日 北海道大学

宇宙空間には摂氏マイナス263度という極低温の領域「分子雲」が存在する。近年の観測技術の発達により、これまで見ることができなかった分子雲の様子が詳細に解明されつつあり、そこに大量の氷星間塵が浮遊していることや、有機物を含む多種多様な分子がガスとして存在していることが明らかになっている。これらの分子や氷星間塵が長い時間をかけて集まると分子雲内に星が生まれる。

しかし、極低温の環境では、水素などの軽い分子を除くほとんどすべての原子や分子は氷星間塵に付着し、そのまま凍りついてしまうため、ガスとしては存在できないはずである。また、分子雲には氷の表面の分子を蒸発させるために必要な紫外線などのエネルギー源がない。こうしたことから、極限環境で分子がガスとして存在できるメカニズムはこれまで謎であった。

北海道大学低温科学研究所の大場康弘さん、渡部直樹さんたちの研究チームは、氷星間塵の表面で化学反応が起こるときに分子がガスとして放出されるという理論モデルを実験で検証した。大場さんたちは、宇宙空間と同じ超高真空を再現する実験装置内に極低温で光なども存在しない分子雲と同じ環境を再現し、摂氏マイナス263度の擬似的な氷星間塵を作成した。

実験では硫化水素分子を氷の表面に付着させ、氷星間塵に実際に存在することが知られている水素原子をこの氷と反応させて、その様子を赤外線吸収分光法で観測した。その結果、硫化水素と水素原子の化学反応により、氷表面から硫化水素がガスとして効率よく放出されることがわかった。光などのエネルギーがない極低温の宇宙空間で、氷星間塵からガスを放出させる仕組みを実証する成果だ。

氷星間塵の表面から分子が放出されることを示した模式図
分子雲で起こる化学反応によって、氷星間塵の表面から分子が放出されることを示した模式図(提供:北海道大学)

今回の結果から、多種多様な分子が凍りつくことなくガスとして分子雲に存在できる理由が明らかにされ、長年の天文学の謎が解かれた。分子は、氷星間塵の表面やガスの状態で化学反応を起こすことによって種類を増やす(分子進化)。氷星間塵からガスが放出されるメカニズムを解明した今回の成果は、宇宙における分子進化を理解するうえでも重要なものだ。さらに、これまでは非常に小さな氷の表面に弱く結合した分子が化学反応によって表面から飛び出すかどうかもよくわかっていなかったが、この点も解明した。

今後、メタノールなど他の分子で同様の実験を行うことで、分子雲のガス組成がどのように決定されるのかについて、より定量的で詳細な議論を行うことができるようになると期待されている。

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