月刊ほんナビ 2024年1月号
📕 「宇宙の中の時間 時間の中の宇宙」
紹介:原智子(星ナビ2024年1月号掲載)
12月になると「今年もあとわずかだ」と思い、「1年が経つのは速い!」と感じる人が多いだろう。しかし小学1年生のときの私は「2年生になる日が遠い」と真剣に考え、「1か月先なんてちっともやってこない」と思っていた。そしていまは「もう原稿の締切日だ!」と、あっという間にやってくる1か月に焦っている。
『宇宙最大の謎!時間の本質を物理学で知る』では、時間はラベルだという。物理学で物体が「いつ」「どこで」「どう」動いたかを計るときの「いつ」を表すラベル。この本では「物理学者が扱う時間」「時間(宇宙)の始まりと終わり」「時計と生活の変化」について解説している。最終章では、冒頭に書いたような「体感する時間」のほか「なぜ60進法か」「3種類の1日」など身の回りの時間についてもふれている。
そんな宇宙誕生から現在までの時間の中で、天文学の発展に貢献した重要な事項を時系列で網羅したのが『ビジュアル天文学史』だ。国立天文台が編纂する『理科年表』の天文部「天文学上のおもな発明発見と重要事項」から101項目を精選し、カラー図版を交えて見開きで紹介する。本文にはたびたび鎖マークと数字が登場し、関連事項を示す。その鎖にしたがって行ったり来たりしながら読み進むとまさに連鎖的に理解が広がり、中高生や天文初心者も「天文学は面白い」と感じるだろう。もうひとつ親しみを感じるポイントが、登場人物の顔が見えること。用語索引とは別に人名索引があり、天文学が多くの人たちの挑戦によって拓かれてきたことが伝わる。
一般的にパラダイムシフトを「コペルニクス的転回」というが、彼以前にも地動説を唱える人はいた。それでも彼の影響力が大きいのは著書の存在だろう。『天球回転論 付 レティクス「第一解説」』は、コペルニクスが1543年に出版した『天球回転論』全6巻から「地球の運動」について書いた第1巻と、それに先立ち弟子のゲオルク・ヨアキム・レティクスが発表した『第一解説』(本邦初訳)を収録した学術文庫。それぞれの内容を理解するための訳注が充実し、生誕550年の今あらためて読みたい書物。さらに、コペルニクスとレティクスの活動や二人の関係を伝える「訳者解説」もあり、まさに「天文学のコペルニクス的転回」が詰まっている。
天体の運行を私たちにわかりやすく再現してくれるのが、プラネタリウムである。本誌10月号「プラネタリウム100周年記念」で関連書籍を掲載済みだが、さらにぜひ紹介したいのが『星空をつくる機械』だ。おなじみ「ブラック星博士」のマネージャーである明石市立天文科学館館長の井上毅氏が、プラネタリウム前史から現在までの歩みを詳しくつづった決定版。プラネタリウムと天文と人間への愛情を感じる一冊。
ここからは、日本の天文史に埋もれさせたくない人たちの話。『小わく星ナガクボ』は、『改正日本輿地路程全図』を製作した江戸時代の地理学者・長久保赤水の功績を伝える絵本。2022年2月号でも彼の活動を記録した書籍を紹介したが、今回は彼がどのような試行錯誤を重ねて天文学的に正しい地図を作ったのか学べる。伊能忠敬より42年も前に、庶民の役に立つ地図を世に送り出した業績は、もっと広く知られるべきだ。まずは、「小惑星に命名されたナガクボ」のこの絵本を子どもも大人も読もう。
『昭和天文クロニクル』は日本の天文学を支えた神田茂さん・清さん兄弟と小山ひさ子さん、村山定男さんの活動を紹介する物語。ストーリーテラーは、学校の課題で昭和について調べ始めた男の子。祖父から天文同好会の話を聞いたり、預かった天文資料を調べたりして、その結果わかった記録としてドキュメントが語られる。先述の4人をつなぐキーワードは「アマチュア天文家」だ。「プロフェッショナルじゃない」という意味ではなく、アマチュアだからこそ続けられる地道なエネルギーや、献身的な活動パワーを持つ人のこと。小山さんも村山さんも“偉大なアマチュア天文家”だと男の子は悟る。全編を通して、著者の反戦メッセージも伝わってくる。