月刊ほんナビ 2024年6月号

📕 「宇宙で生まれる命 地球で育まれる命」

紹介:原智子(星ナビ2024年6月号掲載)

今年もいつものように桜の花を眺め、近所の藪にやって来た鶯の鳴き声を聞いた。昨今の世界情勢を思うと、自然を愛でることのできる幸せをつくづくと感じる。春になると普段に増して“命の尊さ”を思うのは、多種多様な動植物が命をつなぐために活発に活動するからだろう。

『宇宙から考えてみる「生命とは何か?」入門』(Amazon)

そんな生命について、宇宙からの視点で考察するのが『宇宙から考えてみる「生命とは何か?」入門』だ。宇宙生物学者であり実験物理学者でもある著者は、地球外生命体の痕跡を探すためにNASAが計画している次世代宇宙望遠鏡Habitable Worlds Observatory(HWO)や、系外惑星観測を目指して欧州が進めている中間赤外線干渉計Large Interferometer For Exoplanets(LIFE)にも関わっているという。同書では宇宙と生命をめぐる壮大な疑問について「人類は宇宙をどう考えてきた?」「人類は生命をどう考えてきた?」「宇宙には、私たち以外にも生命が存在する?」という3つのパートに分けて探る。PART 1に登場する、ケプラー宇宙望遠鏡の主責任者ウィリアム・ボルッキ博士の開発秘話は、現場にいた著者ならではの貴重なエピソードだ。PART 3では“第2の地球”を捉えるためのHWOとLIFEについて解説している。中学生以上を対象にした「14歳の世渡り術」シリーズだから、天文初心者でも読みやすいだろう。

『宇宙になぜ、生命があるのか 宇宙論で読み解く「生命」の起源と存在』(Amazon)

ところで、『生命とは何か』という文字を見ると、シュレーディンガーが1944年に書いた名著を思い浮かべる人もいるかもしれない。彼と同じように、物理学を研究する著者が自身の専門分野を応用して生命学に迫るのが『宇宙になぜ、生命があるのか』だ。具体的には「“インフレーション宇宙論”によって予想される“宇宙の広大さ”こそ、生命の起源の謎を解き明かすうえでのカギなのではないかと思いついた」という。第1章で生命を定義し、第2章で生命を化学反応システムとしてみる。第3章で地球生命の進化史を追ってから、第4章で太陽と地球の誕生、第5章で原始生命の誕生を探る。そこから、第6章で宇宙に原始生命が生まれる条件、第7章で生命誕生に必要な宇宙の広さを宇宙論の知見から検討する。最後に、第8章で地球外生命探査計画を紹介し、人類が発見する可能性に迫る。終章で著者は、生命の神秘さについて語っている。やはり「我々はどこから来たのか」は、永遠のテーマなのだ。

『角川の集める図鑑GET!宇宙』(Amazon)

ここからは、大判のビジュアルブックを紹介する。『宇宙』は未就学児から小学校高学年生を対象にした図鑑だが、「宇宙と生命」を切り口にしているのが新鮮。プロローグコミックで博士から「生命のもとはいったいどこからやってきたのか」と問われた3人のキャラクターは、謎を解く旅に出る。地球から宇宙の果てまでを示した観音開きの「宇宙地図」にしたがい、3人はだんだん地球から離れていく。その度にミッションが与えられ、クリアするために図鑑を使って学ぶという仕組みだ。宇宙タレントの黒田有彩さんがナビゲートする特典動画や、デジタルカードを集めてオンライン図鑑が楽しめるWEBサービス『GET!+』もある。

『地球史マップ 誕生・進化・流転の全記録』(Amazon)

一方『地球史マップ』は、地球と生命を見つめ直す内容だ。「宇宙と地球の誕生」「人類や生物の活動」、そして、気候の変動や資源の搾取によって「飽和寸前となった地球の姿」を約300枚の地図と多彩な図解や写真で表現したアトラス(地図帳)。宇宙誕生から現在までを時間軸に沿って、9つの階層で表している。つまり、35億年前に生まれた「生命」は今も存在し、1万2000年前に始まった「農業」は人口を増加させ、250年前に始まった「工業化」により資源の奪い合いや二酸化炭素による気候変動など様々な問題が生まれた。それらの最新知見を考古学者・天体物理学者・生物学者・気候学者・歴史学者・惑星学者など30人以上の専門家が持ち寄り視覚的にまとめた。この本のまだ見ぬページ(次の階層)に「新人類の誕生(私たちの滅亡)」が来ないことを願う。

『春の宇宙で幸せさがし』(Amazon)

なんだか気持ちが重くなってしまったので、最後は『春の宇宙で幸せさがし』をしよう。おなじみ、ほっしーえいじ氏の「科学絵本シリーズ」も今作で四季の宇宙がそろった。春は、主人公のフクロウが「ソンブレロ」をかぶった「カラス」と幸せを探しに行くお話。かに座の「ハチ(ビーハイブ)」に案内されて「白い星」や「赤い星」、「つながった銀河」や「くっついた星」、「大小の北斗七星」などを見つける。幸せを探すことは、生きていることの証かもしれない。

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