月刊ほんナビ 2024年10月号
📕 「星の間を巡り迫り来る彗星」
紹介:原智子(星ナビ2024年10月号掲載)
いよいよ紫金山・アトラス彗星の観望好機が迫ってきた。いつどこで観測しようか楽しみでありながら、どんな姿を見せてくれるか心配な人も多いのでは。彗星の魅力は「実際に見るまでわからない」ことかもしれない。自分の目で、望遠鏡で、カメラで、確認してこそ「その彗星と向き合った」と言えるだろう。紫金山・アトラス彗星としっかり向き合うために、いまから怠りなく準備しよう。
『紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)完全ガイド』は彗星がいつどの方向に現れるかという基本情報のほか、様々な観測方法を解説する「大彗星観察ガイド(第2章)」、天体撮影の初心者でもわかりやすい「絶対に失敗しない大彗星の撮り方(第3章)」を紹介している。大判の紙面にカラー図版や写真を豊富に掲載しているから、「今回初めて彗星を観測する」という人でも安心だ。さらに、歴代の大彗星を振り返る「一期一会の大彗星の記録(第4章)」では、著者がこれまで撮影してきた美しい彗星写真が次々に登場する。往年の彗星ファンにとっては懐かしかったり、自分が見たときの記憶がよみがえったりするのでは。また、「これから見られる驚異の天体ショー(第5章)」では、将来起こる天文現象も紹介。今回の紫金山・アトラス彗星の観測計画を立てるだけでなく、将来の天文現象にも思いをはせたくなるムックだ。著者は本誌で連載「最新宇宙像」などを担当する沼澤茂美氏。
『なぜ彗星は夜空に長い尾をひくのか』も彗星をテーマにした読み物。著者はこちらも本誌でおなじみの渡部潤一氏で、紫金山・アトラス彗星に限らず「そもそも彗星とはどんな天体か」について、最新の太陽系天文学によりていねいに教えてくれる。ユニークなのは、1章と5章とエピローグに登場する「観測風景」という物語だ。天文台で観測をする研究者の風景や心情を添えることで、天文初心者でもとても読みやすく、自然に彗星への興味を導いてくれる。ちなみに、これまで一部の天文愛好家の間で流れてきた「渡部氏が本で唱えた『天体の姿』は、反対の結果になりがち」という噂は今回どうなるか⁉それはこの本を読み、実際に彗星を見て確かめよう。
さて、こうして私たちが心待ちにする彗星だが、かつては「突然現れる変わった姿の星」として不吉なものとされた。そんな古い時代の星図を紹介するのが『天空を旅する星空図鑑』だ。ここに登場するのは、16~19世紀に描かれた美しい星図と、それを描いた天文学者や芸術家の人生。もはや第一級のアート作品ともいえる星図絵には、それぞれの時代の宗教観や文化が詰まっている。年代や製作者によって異なる天文解釈や表現方法は、美術館で作品鑑賞をしているように興味深い。プラネタリウムファンや神話ファンなら、手元に置いていつでも眺めていたくなるビジュアルブック。
一方、『神秘的で美しい星図鑑』はかわいらしい絵本のような星座解説本。88星座と月や太陽、惑星にまつわる神話やエピソードが、優しい文章とシンプルなイラストで紹介されている。大人が読んでも楽しめるし、親子で読み聞かせをしても「千夜一夜物語」のように楽しめそう。コニカミノルタプラネタリウムの解説員が監修を務めているおかげか、リクライニングシートに腰掛けてドームを見上げているようなゆったりした気持ちになる一冊。
ところで、この8月に大阪市立科学館がリニューアルオープンした。同館が2年ごとに発行している『こよみハンドブック』最新版もミュージアムショップで買えるようになった(公式ネットショップでも購入可)。この本の優れているところは、大阪で使うことを前提に作られているから関西で暮らす人々にとって「日の出・日の入り」や「月の出・月の入り」「日食・月食・星食」などの時刻がわかりやすいこと。最初に発行された1994年頃は、現在のようにパソコンやスマートフォンで簡単に検索したり時刻を変換したりすることはかなわなかった。30年を経た今も発行し続けているということは、当地の人たちにとって変わらずにこのハンドブックが便利で、天文への理解を深めるのに役に立っているのだろう。なお、同館で現在開催中(2024年11月24日まで)の企画展「日本の科学館は大阪から」では、1937(昭和12)年に開館した日本初の科学館(大阪市立電気科学館)から継承してきた歴史を貴重な資料と共に見ることができる。