月刊ほんナビ 2024年12月号
📕 「一期一会の星空を求めて歩む人たち」
紹介:原智子(星ナビ2024年12月号掲載)
10月の天体観測の目玉は、なんといっても「紫金山・アトラス彗星」だった。本稿執筆時(10月中旬)は、東京でも肉眼でぼんやりとした姿を確認でき、スマートフォンでも長い尾をとらえることができた。今号が発売されるころにどんな状態になっているかわからないが、しばらく晴れ間にその姿を探したい。
さて、そんな彗星について知る・撮る・探るの3ステップで教えてくれる教科書が『彗星の科学 改訂版』。初版発行の2013年には、アイソン彗星が話題になった。記憶している読者も多いと思うが、明るい大彗星になると期待されながら近日点通過と共に崩壊してしまった彗星だ。今回の紫金山・アトラス彗星についても「崩壊しているかも」という声があり、期待通りに明るくなるか心配された。それほど、彗星の予報は難しいのだろう。改訂版では最新の彗星研究と、日進月歩で進化する観測・撮影技術を紹介。カラー口絵には、これまで話題になった美しい彗星の写真も掲載している。
紫金山・アトラス彗星が日本からは確認しづらかったときや、自分のいる場所の天気が悪いとき、ハワイの国立天文台すばる望遠鏡施設内に設置された「Asahi Astro LIVE」をよく眺める。こんなに美しい星空や天体を手軽に見ることができるなんて「朝日新聞さん、ありがとう」と思っていたら、この配信にはいろいろな事情や苦労があったという。それらがぎゅっと詰まった本が『朝日新聞宇宙部』。2019年に開始した東京大学木曽観測所の星空ライブを含めて、基本的なしくみを作ったのは東山正宜氏だ。天文ファンならその名前を新聞紙面で目にしていると思うが、天文少年だった彼が世界中に星空を発信するにいたった物語である。多くの人に星空を届ける(ライブ配信する)ことは、たとえ天体ショーごとの“にわかファン”の増加であっても、有意義だと思う。その中から“第二の東山少年”が現れるかもしれないし、星空に親しむ市民が増えれば星空の大切さに気づく人も増えるかもしれないから。
今回「彗星を見たい」と思った人の中には、公開天文台へ足を運んだ人もいるだろう。『西はりま天文台の星空日記』は、一般に開かれた施設でありながら大学の研究機関として最先端の観測も行っている同天文台について、実際に勤務する研究員が詳しく紹介する読み物。口径2mの巨大望遠鏡「なゆた」などの施設案内、観望会や見学の方法、天文台の日常生活や研究現場、さらに天体観測にまつわる「ちょっと困ったこと」まで教えてくれる。前書では新聞記者になった天文少年のいきさつが書かれていたが、今回は天文台の研究員になった大島誠人氏の歩みがつづられている。将来「天文台で働きたい」と思う少年少女にとっておおいに参考になるだろう。
紫金山・アトラス彗星は幸いにも日本で観測できたが、もしも南半球でしか見られなかったらきっと遠征する人がいた。皆既日食やオーロラなど限られた場所でしか起こらない天体ショーは、できれば“現場”に行きたい。そんな“星空の現場”を旅したササキユウタ氏の記録が『スターリー・ジャーニー』。本誌2013年1月号~2015年5月号で旅コラム『世界さすらい星歩き』を連載していたので、覚えている読者もいるのでは。彼が星をテーマに1年5か月にわたり、世界一周をして得た人生の教訓やインスピレーションを書いたエッセイ。電子版なら、自分も旅をしながら身軽に読める。
世界をあちこち巡るのが無理でも、日本国内で美しい星空に出会えるスポットはたくさんある。とはいえ、やみくもに暗い場所に出かけても、天体観望に不慣れな人にとっては「どこが安全な場所なのか」「どんな準備が必要か」わからない。そんな観望初心者にとって心強い味方が『星と天体観測と旅の本』だ。北海道から沖縄まで、星がよく見える場所での観望会や施設の案内、公開天文台の利用方法、さらに温泉や周辺観光までガイドしてくれる。アプリをダウンロードすれば、電子書籍版と地図をいっぺんに見ることもできる。遠出が無理でも、ビルの屋上で行われる観望会や、天文をテーマにした小説・マンガなど、さまざまな方法で天文に親しむアイデアを提案している。
もちろん『星ナビ』も、星と宇宙を楽しむた「ナビゲーション」をしているので、まず手に取ってほしい一冊!