Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2016年11月号掲載
宇宙に散らばる気になるモノたち

「宇宙は爆発でみちている」そうだ。太陽も、恒星も、銀河系も、あるがままにそれぞれの自然法則にしたがって爆発を起こしているという。地球で起こる地震や噴火も、爆発なのである。『爆発を好む宇宙』 の著者・松岡氏は半世紀にわたりX線天文学の最先端で、宇宙の爆発現象の観測と研究を続けてきた。1990年代は米・日・仏共同のガンマ線バースト観測衛星ヘティ(HETE)の日本代表を務め、その後は国際宇宙ステーション「きぼう」実験棟船外に設置した全天X線監視装置MAXIプロジェクトの中心的役割を果たしてきた。この本ではこれらの観測成果と研究現場の経験をもとに、連星系変光星の巨大フレアや中性子星連星系のX線パルサー、ブラックホールX線新星や極超新星の残骸など、宇宙のさまざまな爆発現象を紹介していく。ちなみに、喜寿を過ぎた著者が現在もMAXIのデータを使った研究を継続中だという、その爆発的なエネルギーにも感服だ。

次も、見えない物質であるダークマターを扱った本。『ワープする宇宙』『宇宙の扉をノックする』の著者で、「ワープした余剰次元」を提唱する理論物理学者リサ・ランドール氏の最新作『ダークマターと恐竜絶滅』 。タイトル(原題『Dark Matter and the Dinosaurs』)からして魅力的だ。彼女の最新理論「ダブルディスク・ダークマター」モデル(二重円盤モデル)によると、6600万年前の恐竜絶滅を引き起こした彗星の地球衝突は、ダークマターの一部が天の川銀河の円盤内に集まり周囲に強い影響を及ぼしたことが原因だという。まだ仮説の段階だというが、難解で想像しにくいダークマターの世界を「恐竜絶滅」というアイコンで示してくれたのは文系天文ファンにとってありがたい。数式を使わずに読み物として段階的に最新宇宙論を紹介する、物語性に満ちた科学書。

ここまでの2冊は、今春発売された書籍で、ちょうどアメリカの研究チームが初めて重力波を検出したと発表した直後だ。新しい観測結果が次の新しい理論を導き、さらに新しい結果を引き出す。まさに“天文学的”スピードで進化していく研究現場にワクワクさせられる。

次の2冊は、さまざまなタイプの天体の不思議なところを、親しみやすい切り口で紹介した本。『星くずたちの記憶』 は、隕石や彗星の塵、月の石、「はやぶさ」が持ち帰った小惑星のかけらなど、地球外鉱物をもとに太陽系の進化を読み解いていく。各章の冒頭に、地上の鉱物を愛した宮沢賢治の童話が紹介されている。物語の話題に関連しながら研究テーマに入っていくのが、賢治ファンの筆者の心をくすぐった。

『へんな星たち』 は、恒星研究のプロフェッショナルが選んだ個性的でユニークな10個の星(恒星)の解説本。著者の鳴沢氏は西はりま天文台に所属し、天体物理学と地球外知的生命体探査(SETI)を研究すると同時に、日本最大の光学望遠鏡(かつ公開望遠鏡としては世界最大)の「なゆた」を使った一般向け天体観望会で解説も行っている。その楽しくてわかりやすい語りそのままに、専門家として不思議な星たちを教えてくれる。すばるにあるイナバウアーする星、名前通り驚きに満ちたミラ、見えない幽霊星をとらえた瞬間、危険な宇宙の蚊取り線香など、ネーミングからもうチャーミングだ。そんな“変な星”を見るために、この本を持って西はりま天文台へ行きたくなる。

宇宙には、目に見えない物質やエネルギー、見えても不思議な星などがいっぱいある。ひとつの発見をすると、もっと多くの謎が見つかると言ってもいいかもしれない。その尽きぬからくりが「宇宙」で、尽きぬ探究心が「科学者」かもしれない。

(紹介:原智子)