みなさんには「もう一度読みたい」と思う本はないだろうか。子供のころ何度も読んだ絵本とか、天文や宇宙に興味を持つきっかけになった本など、あなたに何かしらの影響を与えた書籍があるだろう。『不思議の国のトムキンス』もそんな一冊かもしれない。原書は1940年にイギリスで刊行され、日本では1942年に邦訳された名著。1950年から出版している白揚社が創立100周年を記念して、長らく入手不可能だった単行本を当時のままの形で復刻した。著者のジョージ・ガモフは「ビッグバン宇宙論」を提唱した世界的な理論物理学者で、物理学の難解な基本原理を一般の人にわかりやすく、かつ面白い物語に仕立て次々出版したことでも知られる。彼の文章は科学的であるだけでなく、ユニークでウイットに富んでいるところが魅力だ。また、主人公トムキンスが目撃する、相対性理論や量子力学の効果が容易に起こる世界を描いたフーカムの挿絵も見逃せない。オールドファンにとっては懐かしい一冊であり、現代の天文少年少女(あるいは物理学初心者)にとっては興味深い入門書になるだろう。
日本にも魅力的な文章を書く科学者はいる。多くの天文ファンに愛されてきたひとりが、“星の文人”野尻抱影だ。彼がさまざまな本に書いた随筆を厳選してまとめたのが、『野尻抱影 星は周る』。昨年末にスタートした平凡社のSTANDARD BOOKSシリーズの一冊で、『寺田寅彦 科学者とあたま』から始まり、『朝永振一郎 見える光、見えない光』で第一期全8巻が完結した。来春からは第二期も予定されている。いずれの随筆も「科学は日常の中にあり、注意深く観察することから始まる」と教えてくれる。
現代の宇宙論を親しみやすく語る佐藤勝彦氏の著書、『増補改訂版 眠れなくなる宇宙のはなし』が出た。2008年刊行の『眠れなくなる宇宙のはなし』に加筆修正し、新章として今年観測成功が発表された重力波の話題を加えている。まさに“宇宙のはなし”は、眠れなくなるほど尽きない。
さて、この秋話題の映画といえば『君の名は。』だが、人気の根強さでいえば「スター・トレック」も負けていない。10月に公開された新作『スター・トレック BEYOND』にあわせて、テレビドラマが誕生してから50年間のエピソードや懐かしいシーンを交えながら、惑星や銀河を解説する『スター・トレック オフィシャル宇宙ガイド』が登場した。もちろんストーリーはまったくのフィクションだが、舞台設定など宇宙的背景は学術的にしっかり監修され納得の内容に仕上がっている。
最後に、当コーナー8月号で紹介した「よむプラネタリウム」から、『秋の星空案内』が発行されたことをお知らせしておこう。紅葉など秋の風情あふれる風景と、お月見や神話にまつわる星座など、今回もプラネタリウムを観賞するように楽しく見て読める。
(紹介:原智子)