何歳になっても4月になると「何か新しいことを始めたい」と思う。もちろん、日本の新年度が4月に始まるから「スタートのきっかけ」になりやすいわけだが、筆者としては草木が芽生える「春」という季節が、日本人の心にも影響を与えていると思う。この機会に新たな「学び」を始めて、自分の年輪を1つ増やすように知識を身に付けるのはいかが。
まずは、小学校低学年を対象にした宇宙科学絵本シリーズより『かせい』。物語は、火星からの招待状で始まる。「にんげんの おきゃくさんを むかえる さいしょの わくせいに なりたいんだ」といい、火星と2つの衛星について自己紹介していく。現在、JAXAでは「はやぶさ2」に続くサンプルリターンとして、「火星衛星探査計画(MMX)」を進めている。将来は、月面基地を拠点にした「有人火星探査」も見据えている。そんな火星について、「学ぶ」というよりも「興味をもって、知ろう」と子どもたちに呼びかける絵本。
ここからは本格的に学ぶためのテキストを紹介していく。『地球外生命を探る』は、千葉工業大学学長(惑星探査研究センター所長・地球学研究センター所長)を務め、今年3月に亡くなった松井孝典氏が2022年12月に発刊した書籍。氏は2021年にNHK文化センター青山教室で講座「地球外生命は存在するのか」を行い、その内容をもとにNHKカルチャーラジオで「地球外生命を探る」というテーマの話をした。このときの内容をベースにしながら、ラジオで割愛した内容を大幅に追加したのが同書だ。彼は長きにわたり「生命の起源」に関心を寄せてきたが、ここ数年で認識が変わり「起源より進化が問題ではないかということに気がついた」という。ラジオでは紹介できなかった「地球における生物進化」や「ウイルスと生物の共進化の可能性」について知りたい人は、ぜひこの本を読もう。いつの時代も先人の知識が詰まった“書籍”からは、その英知を学ぶことができてありがたい。
『宇宙の化学』も、著者が東京大学教養学部で行った講義「アドバンスト理科 構造化学α」の内容を書籍化したもの。宇宙空間で小さな原子がどのように分子になり、やがて星や惑星へと進化するのかについて、化学の視点から解説している。著者いわく「宇宙の化学の研究はまだ歴史が浅い。(略)未熟な分野である宇宙の化学は発展の余地も大きく、その発展に伴い科学全体の発展もまた促される」という。宇宙を物理的に見るか化学的に見るか、その両方が大切であることをあらためて感じる。
最後の2冊は「シリーズ宇宙物理学の基礎」から、第2巻の『宇宙電磁流体力学の基礎』と第4巻の『放射素過程の基礎』。いずれも大学の授業で使う教科書で、かなりのボリュームがある。このシリーズからは2023年1月号当コーナーで第1巻『宇宙流体力学の基礎[改訂版]』を紹介したが、今回の『宇宙電磁流体力学の基礎』は宇宙における流体力学の中でも「プラズマと磁場の相互作用」である電磁流体力学に焦点を当てている。また、2016年に発刊された第3巻『輻射輸送と輻射流体力学』では限定的な記述にとどめていた「輻射(放射)に関わる素過程」について、今回の『放射素過程の基礎』で基礎理論から詳しく解説している。そのうえで、「輻射(放射)からどのような物理情報を知ることができるか」を理解することが今巻の目的だという。ちなみに、同シリーズは全6巻からなり、残るは第5巻の『輻射電磁流体シミュレーション』だ。最後は「輻射」と「電磁流体」の関係か。
(紹介:原智子)