天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

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ハートレイ・IRAS周期彗星 161P/Hartley-IRAS

2004年11月3日深夜、02時36分、10月に計算した彗星の軌道(191Kバイト)を同好諸氏に送付しました。そして、しばらく休息して、この夜は、06時45分に帰宅しました。そのとき、空には下弦の月が輝くもののきれいな秋晴れの空でした。さて、その夜は、22時45分にオフィスに出向いてきました。11月2日からの秋晴れは、まだ、続いていました。すると、23時57分に約1日前に送った彗星の軌道につけたサブジェクト「Cometary Orbits in October」を持ったメイルがサイディング・スプリングのロブ(マックノート)から届きます。『何だろう。ミスでもあったかな』と思って、彼のメイルを見ると、「おい! 今、ハートレイ・IRAS周期彗星(1983 V1)の検出を試みているが見つからない。彗星の近日点通過の誤差(Δ;T)は、いったいどれくらいなんだ」というちょっと怒ったような問い合わせと、さらに、彼が10月に発見した2004 T3の近日点距離(q=8.87AU)が大きいことが気になったのか、「近日点距離が8AUより大きな彗星は、オールトの彗星雲からやってきたものが多いのか」という質問等が書かれてありました。そこで、彼には『計算上では、周期の誤差は±0.12日であることが示されている。しかし、周期が長いので、近日点通過の誤差にして1日か、もうちょっと広い範囲を捜索した方が良いだろう』というメイルを返しておきました。11月4日00時52分のことです。ところで、ロブにそのように返答したのは、この彗星は、前回の回帰には、1983年11月4日から1984年6月4日まで、約半年間の期間、観測されています。従って、これまでの経験から考えて、今回の近日点通過の誤差は、おそらく±0.25日以下のはずです。しかし、彗星の周期が21.5年と長いことを考えると、実際の誤差は、もう少し大きいかも知れないからです。

事実、ロブが、すでに、その検出に挑戦して、何枚かのフレームを撮影し、その中には、写っていないのです。彗星は、当時、予報光度では15等級まで明るくなっているはずです。どう考えても、20等級より暗いはずはありません。つまり、彗星は、予報位置には、間違いなくいないのです。でなければ、こんなメイルは届きません。従って、彗星の近日点通過の予報値がもっとずれているのでしょう。

このメイルには、ロブの質問について『以前には、私も、近日点距離の大きな彗星のほとんどは、オールトの彗星雲からやってきているものと思っていた。しかし、最近の計算結果を見ていると、その可能性は、五分五分だと推測している。統計を取ってみたわけではないが……』という返答と、『ところで、最近では、新周期彗星の検出が可能な時期になっても、多くの観測者が、その検出ということをほとんど完全に忘れている気がしている。この時期、1996 R2,1998 X1,1999 DN3,1993 W1,1999 J5が、すでに検出の好機で、その光度も明るくなっている。これらの彗星についても、その検出を試みてくれないか。ただし、きみも覚えているとおり、1996 R2については、私がサイディング・スプリングに滞在した2003年7月に十分暗い光度までその検出を試みたが、見つけることができなかった。多分、彗星は、この回帰では、その活動が鈍く、明るくならないのだろう(天文ガイド2004年1月号参照)』というメイルを送っておきました。いずれにも、小さな値の周期の誤差をつけてです。しかし、これらにつけた周期の誤差が、2005年7月のハーゲンローザ周期彗星(1998 W2)の検出時にロブの疑心を生じることになります。

さて、この夜は、久しぶりに洗車に出向き、06時35分に帰宅しました。下弦の月が、ほぼ、天頂に輝いていましたが、星も良く見える秋晴れのきれいな朝が続いていました。自宅に戻ると、例のワンちゃんが、玄関で待っていました。「いつも関心だねぇ…….毎朝,待ってくれてるなんて……』と言いながら、買っておいたコロッケをあげました。

次の夜(4/5日)は、20時50分にオフィスに出向いてきました。すると、その夕方16時13分にロブから「1983 V1を検出した。彗星は、少し拡散しているが、ほとんど恒星状で尾はない。しかし、今夜と明日の夜は晴れそうもない」というメイルとともに、3個の精測位置が書かれてありました。1.0-m反射望遠鏡を使用して、検出光度は19.5等、その時刻は、11月4日01時21分でした。つまり、彗星の検出は、ロブの「怒った(?)」メイルから、約1時間半後、私の返答から約30分後のことでした。その検出位置は、予報軌道から、赤経方向に−0゚.61、赤緯方向に+0゚.25のずれがありました。これは、近日点通過時刻への補正値にして、Δ;T=−4.73日にもなります。多分、彼は、私のメイルを見て捜索位置を大きく広げたのでしょう。『写野の狭い 1.0-m反射では、きっと、苦労したことだろう』と思いながらそのメイルを見ました。Δ;Tが大きかったのは、彗星の予報軌道は、約7カ月の観測期間から計算されているものの、発見当時(1983年)の観測群の精度があまり良くなく、また、その発見以来、21年が経過していることによるものなのでしょう。

このメイルは、2夜目の再観測用にマウント・ジョンのギルモア・キルマーチン夫妻にも送られていました。送られてきた観測と前回1984年出現の観測を結んだ連結軌道を計算し、結果を21時47分にロブに送っておきました。そこには「検出、おめでとう」というメッセージとΔ;Tについての少々のコメントをつけておきました。しかし、11月4日は、いずれも天候が悪かったようです。結局、彗星の第2夜目の確認は、5日21時頃にマウント・ジョンで、さらに天候が回復したサイディング・スプリングで6日03時頃に行なわれ、この検出が11月6日09時18分到着のIAUC 8428で公表されました。マウント・ジョンでの彗星の核光度は18等級でした。従って、実際の彗星の全光度は、ロブの検出光度(19等級)よりさらに明るかったのでしょう。

なお、最近になって、2005年6月までに行なわれた観測から計算した連結軌道では、彗星の運動には、かなり大きな非重力効果が認められるようになりました。特に、この彗星は軌道傾斜角が96゚と大きいせいか、動径方向に垂直な成分A2が大きいようです。近日点通過の予報が予想外に大きかったのは、この非重力効果のためかも知れません。

その1週間後の11月13日になって、ロブから「非常に良い条件のもので、1.0-m反射望遠鏡を使用して、11月11日と12日にラーガビスト周期彗星(1996 R2)の検出を試みたが、Δ;Tが±0.5日以内に21.5等より明るい天体は、見つからなかった。先に報告したイメージは、間違いだ。削除してくれ」というメイルが届いていました。その日より、数日前にロブより、1つの候補となる観測が届いていたのですが、結局、この彗星は見つかりませんでした。

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未確認超新星(PSN)in 無名銀河

11月10日05時00分、山形の板垣公一氏から「しし座にある無名銀河の中に17.8等の超新星状天体を見つけた。待っていてください」と電話があります。そして、その報告が06時08分に届きました。そこには「発見時刻は11月10日04時24分、10枚以上のフレーム上に確認。30分間の追跡では、移動なし。2001年3月と2002年3月に撮影された過去の捜索フレームには、その姿がない。フレームの極限等級は18.5等。最近では、捜索なし」というメイルとともに、その出現位置と銀河中心の測定位置が報告されていました。報告には、おかしなところはありません。そこで、06時33分に氏の発見報告をダン(グリーン)に送付しました。さらに、06時48分には、板垣氏から「おはようございます。今年の春先の過去画像も、数枚確認しましたので、安心です」というメイルが届きます。『えっ、先ほどのメイルでは、「最近の捜索はない」と書いてあったのに、いったいどういうことなんだ』と、ちょっと、妙な気分になって、07時05分に帰宅しました(この項、のちほど再登場)。

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未確認低速移動天体

11月21日00時すぎに「2004年8月に発見された彗星で、この当時に10等級まで明るくなっていたタッカー彗星(2004 Q1)のすぐそば、アンドロメダ座の中を13.5等の小惑星状天体が非常にゆっくりとした速度で動いている」と連絡があります。報告者によると「MPチェッカーで調べたところ、該当する天体はなかった」のことでした。私の方でも、知られた天体が近くに来ていないかをチェックしましたが、やはり、天体は出てきません。報告された位置を調べると報告の天体は、同彗星から東北東に6'ほど離れた位置を移動していることになります。

このような天体は、CCDフレームやフィルム上の何かを見間違った可能性が大きいものです。しかし、ひょっとすると、地球にもうれつに接近した小惑星が、急に明るくなったのかも知れません。もし、そうならば、時間が経過すると間違いなく見失ってしまいます。ただし、この天体は移動速度が遅いために、その可能性が低いのですが、いずれにしろ、こういう天体の確認は、急を要します。そこで、00時50分に上尾の門田健一氏に『先ほど、電話があって、2004 Q1のそばを13.5等の小惑星状天体が動いていると連絡がありました。知られた天体はそばに来ていないようです。晴れておれば、撮影してくれますか。ちょっと、低くなりましたが……』というメイルを送り、その確認を依頼しました。

約1時間後の01時59分になって、氏から「先ほどから晴れ間が出てきましたので、今撮像中です。4分の間隔で撮像した画像をブリンクしてみましたが、上記位置の15'以内には、移動天体は見つかりません。2004 Q1の移動は確認できます。モーションがわかりませんか?」というメイルが届きます。『あぁ……、やっぱりないか』と、ちょっと、がっかり、そして、安心して、02時04分に門田氏に『初心者らしく、移動は30分で2"とのこと、方向はわかりません。報告者は、板垣さんにも撮影を頼んだとのことです。しかし、飲み会があって撮影できないと言われたそうです』というメイルを送付しました。もし、報告者が言うとおりの移動速度であるならば、この天体の日々運動は、わずかに1'.5にしかなりません。当時、2004 Q1は、日々運動27'ほどの速度で動いていましたので、これに比べても、天体の動きはあまりにも遅すぎます。

すると、02時24分に門田氏から「15分ほど待ってみましたが、やはり見つかりません。こちらのピクセル分解能は、3.3秒角ですので、上記のモーションの天体の動きを目視で確認するためには、1時間以上は必要ですね。低空ですが、晴れ間が続くようでしたら、念のため、のちほど向けてみます」という連絡があります。さらに、氏からは03時24分に「01時49分と03時03分の画像をブリンクしましたが、報告を受けた位置には移動天体は見つかりませんでした。03時の画像は、低空で写りが良くないため、計算上、5"角足らずのモーションが、目視で判別できなかった可能性はあります」という移動天体は見つからないという確認結果が届きます。そこで、03時40分に『どうも、ありがとう。何かのまちがいでしょう。でなきゃ、カイパーベルトの巨大天体だったりして……』というメイルを送り、この確認作業は終了してもらうことにしました。門田さん、どうも、ありがとうございました。

さて、この21日の朝は、06時30分に帰宅しました。空は、まだ、良く晴れていました。そのためか、この報告が、新たな発見を誘う「呼び水」になるのではないか、と期待しながらの帰宅でした。

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とも座新星 2004=V574 Puppis

その11月21日夜、オフィスに出向いてきたのは21時45分のことです。晴天は、まだ、続いていました。しかし、この夜は、天文ガイド編集部から、原稿締切りの案内がなかったために、すっかり忘れていた同誌用の彗星の経路図と全天図を作成しなければなりません。これらを作成するためには、まず、新しく発見された彗星の軌道の更新と残差が大きくなっている彗星の軌道改良から始めます。わずかに10枚足らずの図ですが、最近では、観測可能な彗星が多いために、3夜ほどをついやします。しかし、今月は、これを今夜一晩でやらなければなりません。憂鬱な気分で、部屋に入ると、留守番電話が、何かの連絡をちょうど受けていました。記録音声の出力を止めているために誰からの電話かは、わからないのです。

FAXを見ると、その日の14時21分に1通の報告が届いていました。水戸の櫻井幸夫氏からです。そこには「新星らしき天体を見つけたので、報告いたします。出現位置はとも座で、発見光度は7.5等、11月21日04時29分頃に撮影した2枚のフレーム上に写っています。この星の姿は、11月13日と17日に撮影した極限等級13.6等の画像には見られません。撮影機材は、フジFinePixS2+ニッコール180-mmf/2.8開放、20秒露光。位置測定には、THE SKYを使用しました。変光星・小惑星・IRAS天体については、一応、調べました。参考までに、メイルで画像を送りました」という新星の発見の報告とともに櫻井氏の測定位置が書かれてありました。さらに、同じ内容のメイルが14時29分にも届いていました。

次に、留守番電話を聞きました。すると、13時18分に津山の多胡昭彦氏から「津山の多胡です。お久しぶりです。疑問天体に出会いました。今朝、とも座を撮影したフィルムに写真光度で7.6等の新星を見つけました。FAX番号がわかりません。教えてください」という伝言とその出現位置が残されていました。『ありゃ、二人による独立発見か……』と思いながら、留守番電話を聞いていくと、オフィスについたときに電話をかけてきていたのは、櫻井氏のようです。21時43分に「水戸の櫻井です。昼間に新星の発見を報告しました」という伝言が残っていました。

そこで、21時50分、まず、多胡氏に連絡をとりました。氏には「この新星は、水戸の櫻井さんも見つけているので、間違いない」と伝え、FAX番号を知らせました。続いて、22時05分に櫻井氏にも、電話を入れ、「多胡氏の独立発見があった」ことを伝えました。22時06分に多胡氏から「昼間に、美星天文台の綾仁一哉さんにスペクトル観測を頼んであります」と連絡があります。さらに、八ヶ岳の串田麗樹さんから「櫻井さんの新星、どうなりましたか」という連絡が入ります。女史には『この新星は、津山の多胡さんも発見しているので、間違いない。これからダンに報告する』と伝えました。

22時11分に多胡氏からのFAXが届きます。そこには、「11月21日01時05分頃にペンタックス6×7カメラ f/4.0で4分露出で撮影した2枚のフィルム上にこの新星を発見したこと。11月17日に撮影された極限等級が11.5等の捜索フィルム上には、この新星が、まだ、出現していなかった」ことが報告されていました。発見時刻を見ると、多胡氏の方が3時間半ほど早くこの新星の出現を見つけたようです。つまり、第1発見者は、多胡さん、第2発見者は、櫻井さんになります。とにかく、これらの報告で、この新星の出現は、間違いない事実です。そこで、すぐ、中央局への発見報告の作成を始めました。すると、二人の位置が次のとおり違うことに気づきます。

赤経 (2000.0) 赤緯
多胡氏 07h 42m 52s −27゚06'35"
櫻井氏 07  41  53 −27 06 49

二人の出現位置を比較すると、どちらかが赤経の分の桁をタイプ・ミスしているようです。とにかく、明るい新星ですので、出現位置のミス・タイプは、櫻井氏から届いている画像をあとで測り確かめることにして、この二人の独立発見をこれらの事実を含めて、ダン(グリーン)に報告しました。22時27分ことです。このメイルは、その確認作業を行なってもらうため、上尾の門田健一氏と八ヶ岳の麗樹さん、そして、二人の発見者にも転送しておきました。

そのあと、櫻井氏からのJPEG画像から新星の出現位置を測定することにしました。その間にも、23時00分に、門田氏から「こちらは雨上がりで曇っていますが、晴れ間を期待して待機しています」というメイル、さらに、23時08分に綾仁氏から「多胡さん・櫻井さんの新星の報告原稿をFAXでお送りいただきありがとうございました。今夜、スペクトル確認するために準備中です。結果が出ましたら、メイルかFAXか電話でお知らせします」というメイルが届きます。多胡氏が気をきかせて、中央局への報告を綾仁氏に送ってくれたようです。さて、出現位置の測定は、多胡氏の位置を入れると星の同定ができません。ということは、櫻井氏の位置が正しいのかと、それを入力すると、周囲の星が同定できました。正しい出現位置を測定し、その光度を見ると7.4等と表示されています。この値は、二人の発見光度と大差はありません。さらに、比較星の平均誤差は1"以下です。焦点距離が、わずかに180-mmのレンズですが、デジタル・カメラでは、こんなに良い精度で測定できるのかと、びっくりしながら、この出現位置をダンに連絡しました。23時19分のことです。

その直後の23時22分に櫻井氏から「FAXならびにメイルをありがとうございました。今年になって4度目の報告でやっと本物にめぐり会えました。2000年2月以来、約5年ぶりのことです。本年1月から銀塩とデジカメを併用して捜索を行ってきましたが、10月中旬からは、デジカメ一本に絞りました。フィルム代がかからないのと、撮影後現像を待たずに点検を開始できるのが強みです」というメイルが届きます。つまり、この新星は、我が国では、デジタル・カメラを使用して初めて発見された新星となります。

それから約1時間後の11月22日00時26分になって、麗樹さんから「新星が、今、やっと林の上に出ました。赤緯が−27゚と木のすぐ上なのでピントが良くありません」というFAXとともに、00時ジャストに行なわれた精測位置が届きます。女史の光度は6.9等と新星はその発見時より明るくなっているようです。もちろん、そのすぐあとの00時31分に女史の確認をダンに連絡しました。00時51分には、門田氏から「確認されたとのことで、安心しました。上尾では、まだ、低空は雲の中で、上空の晴れ間からわずかに星が見える状態です。まだ、しばらく待機しています」という連絡があります。どうも、上尾の天候は良くないようです。

約20分後の01時01分には、ダンから「誰かにこの新星が暗い星まで入っている星表に現れているのかどうか調べてもらうことができないか……」という依頼が届きます。今の時間帯にそれが行なえるのは門田氏だけです。そこで01時07分に「下の要求がグリーンから来ました。最近、八ヶ岳が動いてくれないので頼みたいのですが、適当な画像と比較してもらえませんか。念のために、櫻井氏の画像をつけておきます。どうぞ、よろしく」というメイルを送付し、そのことをともにダンに知らせておきました。それともう1件、ダンに伝えることを忘れていた「美星の綾仁氏が今夜、スペクトル確認するために待機している。ここは晴れているので、たぶん美星も晴れているだろう」というメイルを01時32分に送ったとき、01時34分に門田氏から「観測できましたので、まもなく、位置・光度を送ります。依頼の件、そのあと対応します」というメイルが届きます。そして、その結果が01時59分に送られてきました。門田氏の光度は7.0等でした。麗樹さんの今夜の観測のとおり、この新星は、やはり、発見時より約1等級ほど明るくなっているようです。もちろん、門田氏の観測は、02時06分にダンに知らせておきました。

ここで、精測された新星の位置を比較してみましょう。

赤経 (2000.0) 赤緯
180-mm f/4.0 レンズ 07h 41m 53s.76 −27゚06'36".9
25-cm f/5.0 反射 07  41  53 .59 −27 06 38 .1
40-cm f/10.0 シュミット 07  41  53 .56 −27 06 38 .3

上記のように櫻井氏の180-mmレンズで撮られた画像から測定した位置は、焦点距離が 1250-mmと4000-mmの機材から測定された位置と比べて、わずかに2"ほどのずれしかありません。デジタル・カメラは、画素数が多いので短いレンズでも、精測位置近くの精度で測定できることがわかります。これまでは、私のところに報告のある多くの発見画像は、ただ、ながめるだけでした。しかし、この日のできごとのあとは、それを積極的に測定していくきっかけになりました。これは、この発見から知った大きな成果でした。

02時42分になって、門田氏から「こちらでわかる範囲で調べました」というメイルとともに氏の調査の結果が届きます。氏のメイルには、発見位置から1"以内にUSNO-A2.0カタログに18等級の星があることが書かれてありました。このことは、02時58分に門田氏が送ってきた画像とともにダンに知らせておきました。さらに、03時24分になって、綾仁氏から「スペクトルを5本ほど撮りました。まだ、これからフラットなどを撮らないといけませんが、とりあえず、スペクトルのCCDフレームをクイック・ルックした限りでは、バルマー線に P Cygni型の輪郭が見えていますので、新星と思われます。少なくとも、ミラ型変光星が増光したものではありません。グラフを描いてから、もう少しきちんと報告します」というメイルがあります。そこで、03時29分に氏に『観測ありがとうございます。私は、スペクトルのことは、わからないので、直接、中央局へご報告いただければ、幸いです。グリーンには、綾仁さんから、スペクトル結果が届くことを伝えました。ありがとうございました』というメイルを送っておきました。

ところで、門田氏の調査はまだ続いていたようです。03時32分に氏から「指摘した星の位置がさらに細かい位置で掲げられていること。この星が3枚の画像に写っていること」が報告されました。そこで、03時43分にダンに『綾仁氏がスペクトルを撮った。氏の報告は、まもなく、中央局に届くだろう』こととともに門田氏の調査結果を再度報告しておきました。04時32分には、綾仁氏から「スペクトルの報告の件、了解しました。波長較正とバルマー線以外の吸収線のチェックをしてからになるので、もう少し時間がかかりますが、こちらから中央局に報告します。輝線があまり広くも強くもないため、新星と言い切る自信がまだありません。解釈は、ともかく観測事実だけを報告しておきます」というメイルがあります。このあと、この新星に関係したメイルはありませんでした。

この夜は、ここで業務を切り上げ、帰宅することにしました。06時25分のことです。自宅の前には、ワンちゃんが待っていました。そこで、『おい。明るい新星が見つかったよ』と言いながら、買っておいた天婦羅(関西でいう)とパンをあげました。オフィスを離れたあと、しばらくして、綾仁氏からのスペクトル観測の結果が06時13分に中央局に届いたようです。ダンと綾仁氏との間で少しのやりとりがあったあと、ダンは、11月22日07時28分到着のIAUC 8443で、上記のすべての内容を取り上げ、その発見を公表しました。

ところで、この夜に行なう予定であった天文ガイドの星図がどうなったのか気がかりな方もいることでしょう。私は、編集部に言われた締切りを守らなかったことはありません。以上の発見処理を行ないながら、そして、途中で、ふう…ふう……しながら、それらを作成し、この日の朝に送付したことは言うまでもありません。

その11月22日の夜は、18時50分にオフィスに出向いてきました。すると、その日の朝の06時51分に櫻井氏から「仮眠をとっていたため、先ほどメイルを読みました。刻々と情報をご送付いただきありがとうございます。眼視でもしっかり確認できました。今朝、04時30分に6.8等と見積もりました。少し明るくなっているようです。串田さんや門田さんそして綾仁さんたちの観測に感謝しております。IAUCの発行を待ちたいと思います」というメイルが届いていました。また、多胡氏からは07時48分に「今朝07時に綾仁さんから、新星であることは、ほぼ確実で、中央局に投稿したと連絡がありました。ご配慮ありがとうございます」というFAXが届いていました。

20時になって、報道機関と多胡氏と櫻井氏に新天体発見情報No.73とIAUC 8443をFAXで送付しました。すると、櫻井氏から20時57分に「新天体発見情報No.73、ならびに、IAUC 8443をお送りいただきありがとうございます。画素数の少ないJPEG画像でもあそこまで測定できるのに驚きました。また、JPEG画像では、光度測定は無理と一般に言われていますが、中野さんは7.4等という値をどのようにして測られたのでしょうか。私の場合は、モノクロ化して反転し比較しました」というメイルが届きます。氏は、私がどうやって氏の画像を測ったのか、気になっているようです。そこで、21時22分に『今回は、おめでとうございました。チェックのため、FAXを19時ごろに送信したのですが、そちらのFAXが働いてなかったので受けとってもらえませんでした。もう、報道各社に送ってしまいましたが、発見情報に誤りがなかったでしょうか? さて、お問い合わせの件ですが、今日朝、お話したソフトでホトメトリーがありますので、それで測りました。ソフトの実行画面を添付します。青反転されているものがその機能です。また、下の方で青反転しているのが、新星の測定された位置です。ただし、これは、昨日、測定のあと作成したファイルを読み込みましたので、実際と値がちょっと違うかもしれません。実際には、カラー映像を読み込むと、ソフトが、三色分解します。どれを測ってよいのか、分からないので、適当に、良く分解できているのを選んで、位置を測りました。ソフト上でのホトメトリーの測光方法は、良く分かりませんが、3色分解したものをすべて使っているのかも知れません。なお、画面に表示されているのが測定した映像とは、限りません。注意してください』という返答を送りました。

すると、氏から22時21分に「ありがとうございます。誤りはありませんでした。帰宅が19時半をすぎていたので、気づきませんでした。20時過ぎに読売新聞と共同通信社から電話取材がありました。ソフトについて、画像つきのご説明ありがとうございました。すばらしいソフトですね。ご多用中のところ、お手数をかけてしまい恐縮しております」というメイルが返ってきました。なお、11月24日朝の八ヶ岳での観測では、新星の光度は8.2等と減光を始めたようです。

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未確認超新星(PSN)in 無名銀河

 ところで、11月10日朝に報告した山形の板垣公一氏発見の超新星は、その後、発見者を含め、誰からも、確認の報告がありませんでした。しかし、とも座に出現した新星の発見処理が、終了し始めた11月22日05時23分に八ヶ岳の串田麗樹さんから板垣氏宛の1通のメイルがカーボンコピー(cc)されて届きます。そこには「11月10日に発見されたPSNを本日やっと観測を試みました。しかし、当夜は最悪のシンチュレーションで、ピントがまったく出ず、「らしきもの」があることはわかるのですが、精測困難です。日を改めて観測を試みますが、本日の様子では、かなり暗くなっているようですので、2夜目・3夜目と画像が撮れているのなら、すべてを中野さんに送って下さい。当方、多忙のため、いつ確認観測できるかわかりませんので、よろしく」と板垣氏への連絡が書かれてありました。 [この項、次号に続く

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