058(2009年8月)
へびつかい座新星 2009=V2672 Ophiuchi
2009年8月16日22時41分、山形の板垣公一氏から携帯に電話が入ります。板垣氏は、その2日前の8月14日夜、21時39分にアンドロメダ銀河中に17.5等の新星(2009-08b)を独立発見していました。この新星は、8月15日01時28分に上尾の門田健一氏によって、その出現が確認されました。そこで、氏には『また何か見つけましたか』と問いかけました。すると氏は「はい。へびつかい座に新星です」と答えます。そして「門田さんに確認してもらうために、第1報は22時08分に送りました」と話します。『それではオフィスに出向き処理します』と返答しました。
オフィスに出向いたのは、板垣氏から発見報告がちょうど届いた23時05分のことでした。その間にも、門田氏から22時47分に「今、撮像中です。低空の電柱エリアの中ですが、明るい星が確認できます」という報告が届いていました。板垣氏の報告には「新星らしき天体(PN)です。報告をお願いします。2009年8月16日夕刻、21時21分頃に21-cm f/3.0反射望遠鏡+CCDを使用して、へびつかい座を捜索中に10.0等の新星を発見しました。この新星は、即座に60-cm f/5.7反射望遠鏡で撮影した10枚のフレーム上に、その存在を確認しました。この星は、2008年6月11日に撮影した過去のパトロール画像上には見られません。また、30分間の追跡では、移動は認められません。光度変化もありません。すみませんが、変光星をお調べください」という報告とその21-cm捜索望遠鏡と60-cm反射による出現位置が書かれてありました。
板垣氏から依頼された変光星について、AAVSOのWebサイトで調べましたが、発見位置に該当する変光星は見当たりません。23時20分には、門田氏より「電柱エリアの通過を待って、低空ギリギリで観測できました。以下の位置に明るい恒星が存在します。25cm f/5.0反射+CCD(ノーフィルター)で、位置はGSC-ACT、光度はTycho-2(V等級)で測定しました」という連絡とその測定位置が報告されました。門田氏による新星の光度は10.2等でした。その報告を見た板垣氏からは、23時30分に門田氏宛に「あらためてこんばんは。中野さんに報告したメイルを送ります。わりと明るい新星なので大勢の方が発見してることと思います。低空での確認観測をありがとうございました」というメイルが送られていました。さらに23時46分には、門田氏より「USNO-B1.0カタログを調べると、発見位置から5"以内に15等〜19等級の4個の恒星があること、DSS(Digital Sky Survey)の1991年と1996年に撮影された画像上には、明るい恒星は存在していません」という調査が届きます。そこでこれらのことをまとめて、23時53分にダン(グリーン)に板垣氏のこの発見を連絡しました。
すると、その12分後の8月17日00時05分に、門田氏より「おめでとうございます(仮です)! 急いでお知らせいただきありがとうございました。電柱にじゃまされましたが、間にあいましたのでほっとしました。安心したのち彗星観測を再開したのですが、30分ほどで曇ってきました。今は全天が雲に覆われています。確認観測はギリギリのタイミングでした」というメイルが届きます。そのあとになって、門田氏のUSNOカタログの調査をダンに送りました。00時10分のことです。同時刻には、板垣氏より「中野さん。英文報告拝見しました。ありがとうございます。今のところ私だけですか、意外です。門田さん。ただ今のメイルも拝見しました。こちらも曇天になりました。すべてが幸運でした。また、恒星カタログの調査、ありがとうございます」というメイルが届きます。氏への返信として、00時16分に「グリーンは、今、アトランタにいます。8月17日にボストンに戻りますので、メイルを読むのは少し遅れるかもしれません」という連絡を入れておきました。また、板垣氏からは、00時19分にお礼の電話をいただきました。
次の8月17日の夜は、ドライブに出かけ、オフィスには23時20分に到着しました。すると、その日の昼間、15時20分に門田氏から「中央局の未確認天体のWebページに掲載後、確認観測が報告されています。間もなく公表されるでしょう。おめでとうございます!」というメイルが板垣氏に送られていました。板垣氏は、16時56分に「拝見しました。清田さんが観測してくれたのですね。そういえば、今回は確認を依頼することを忘れていました。未確認ページを見てかな? 良かったです」という返信が送られていました。そして、20時00分に板垣氏から2夜目の確認観測が届いています。そこには「昨夜は、ほんとうにお世話になりました。ありがとうございます。PNは、残念ながら暗くなっています。今夜、19時15分の観測光度は11.1等です」と報告されていました。板垣氏の発見は、その夜の8月18日00時42分に到着のCBET 1910で公表されました。板垣氏の予想に反して、他の発見者による独立発見はありませんでした。
午前01時すぎ、CBET 1910を見た門田氏と中国のタオ(チェン)から「発見おめでとう」というメイルが届きます。タオのメイルは、04時31分に氏に返答を書いた際、板垣氏にも転送しておきました。門田氏からは、02時13分に今回の発見の処理手順について「近隣の変光星チェック、恒星の同定が手分けして行われ、中野さんによって迅速かつ的確に報告されました。そして未確認ページに掲載後、追加の確認観測で公表に至り、理想的な結果だったと思います。そのほんの一部ですが、確認作業に関わることができまして幸せです。日本の成果を大事に扱ってくださる中野さんの対応には、本当に頭が下がります。板垣さんの新天体捜索は、達人の域に到達したのではないでしょうか。すばらしい発見に、惜しみない賞賛と喝采を送ります。60-cmの画像を拝見しました(昨夜のPN-2.jpg)。もしよかったら、21-cmでの発見画像を送っていただけないでしょうか? 星ナビ編集部へ回しておきます。Webページの構成によってどちらか片方になるかもしれませんが、ニュースでも使わせていただこうと思っています」という評価が届きました。
この夜には、美星天文台でのスペクトル観測が05時02分到着のCBET 1911に報告されます。同時刻には、この新星の発見を告げる新天体発見情報No.146を報道各社に送りました。すると、05時13分に板垣氏から「おはようございます。今、目が覚めました。昨夜は完全に曇ってしまったので、家に戻り00時30分に寝ました。その10分後にCBET 1910が届いたようです。このたびも中野さん、なにもかもありがとうございました。また、一部重複報告になってしまいすみませんでした。門田さん。電柱ぎりぎりでの確認観測をありがとうございました。いつも急な観測に感謝をしています。このたびの発見に至ることを簡単にお話しすれば、彗星探しのサーベイ・システムに入ってきたのです。これは、ほんとうに金田さんのおかげです。ここまで書いたら、いま、発見情報No.146が届きました。ありがとうございました」という連絡がありました。
8月18日の夜、オフィスに出向くとその日の夕刻16時08分に津山の多胡昭彦氏より「へびつかい座新星の速報をお送りいただき、ありがとうございます。実は、板垣さんがこの新星を発見した時刻の2分後に、私も、この星域を捜索していました。しかし、私が撮影した該当位置には、どういうわけか11等級より明るい星像は写っていませんでした。どこに手違いがあるのか、あれこれ考えてみましたが、一向に分かりません。ついては、念のため8月16日21時23分に撮影した捜索画像を送ります。少し説明しますと、画像の中央に記入した該当位置の赤四角の中にかすかな点像は写っていますが、これは10等よりかなり暗くノイズではないかと思います。画像内のA星はSAO 185589星です。直近の画像では、8月14日20時06分撮影の画像には、12等より明るいものは写っていませんでした」というメイルが届いていました。『やっぱり、捜索していた人がいたんだ……』と思いながら、多胡氏の画像を見ましたが、氏の捜索フレームには12等級の恒星は写っていますが、新星は写っていません。その後、8月20日01時10分になって多胡氏に「板垣さんの発見画像を送ります。もう一度、お調べいただけますか」というメイルとともに画像を送りました。その画像を見た多胡氏からは、同日18時05分に「さっそく、板垣さんのデータとともにすばらしく鮮明に写された画像を送付していただき、ありがとうございます。お礼申し上げます。それにしても、条件は悪かったとは言え、該当位置になぜ10等級の明るい星が写っていなかったのかわからず、頭を悩ませています」という返信がありました。天体用のCCDとデジタル・カメラの感度範囲の違いでしょうか……。
超新星2009im in NGC 1355
それから1週間後の8月25日03時05分に山形の板垣公一氏から「NGC 1355に超新星状天体(PSN)です。取り急ぎ……」というメイルが届きます。上尾の門田健一氏からは、03時35分に「うわっ……、また発見ですね。確認したいところですが、今夜は雨上がりの曇天です」という連絡があります。上尾での今夜の確認は無理なようです。04時14分に板垣氏から「2009年8月25日明け方、02時35分に60-cm f/5.7反射望遠鏡+CCDを使用して、エリダヌス座にあるNGC 1355を撮影した捜索画像上に15.6等の超新星状天体を発見しました。発見後、60分間の追跡中に撮影した10枚以上の画像上にこのPSNを確認しました。その間、移動は認められません。PSNは、銀河核から西に21"、南に1".6の位置に出現しています。PSNは、2006年10月28日JSTに撮影した過去の捜索画像上、および、DSSには、その姿はありません。また、保有する多くの過去の捜索画像上にも出現していませんでした」という報告と出現位置と銀河中心位置が届きます。このメイルの2分後、04時16分に氏から電話があります。『発見が続きますね』と話すと、氏は「お世話をかけます。調子はいかがですか」とたずねられます。そこで『上海に行った7月20日ごろからひいたかぜで調子が悪いのです』と答えました。氏は「このあと、天候が悪そうです」と話します。『そういうときは、ぜひ、捜索を休んでください』と笑いながら話して、電話を切りました。氏の発見は、04時45分にダンに送付しました。すると04時51分に板垣氏から「拝見しました。ありがとうございます。門田さん。曇天でもあの時刻に起きていたのですか。お休みなさい」というメイルが届きます。
しかし、氏の予想どおり、今後の天候が悪そうです。その夜(8月25/26日)、01時24分に板垣氏から「天候が回復しないので、大崎の遊佐徹氏に海外での確認を依頼しました。ムールックの望遠鏡を使用して確認してくれました」と連絡が入ります。その結果が01時16分に遊佐氏から届きます。そこには「板垣さんより、8月25日発見のPSNの確認観測の依頼があり、オーストラリア・ムールックの25-cm f/6.0望遠鏡を遠隔操作して、8月26日00時41分頃に60秒露光で撮影した3枚の画像上にこの星の存在を確認しました。PSNの光度は15.1等、画像の極限等級は19.0等でした。なお、1982年と1987年に撮影されたDSS画像上には、この星が見られません」という報告がありました。その3分後の01時19分には、門田氏から「こちらは、今夜も重苦しい雲に覆われています。衛星画像では、晴れているように見えますが、低層の雲が広がっているようです。板垣さんの「毎夜、朝まで起きているか」の件ですが、ひょっとして晴れ間が見られるかもしれませんので、曇天でも30分ごとに天候をチェックしています。明るい天体なら、わずかな雲間から観測できますので……。昨夜は、04時まで待機していたのですが残念ながら雲は途切れませんでした。薄明の進行が雲にじゃまされて、夜明けが遅い朝でした」という連絡もあります。そして、板垣氏からは、02時07分に「昨夜は何かとありがとうございました。先ほどは、お住まいでしたか? 私は山です。少し晴れています。遊佐さんに海外での確認観測をお願いしました。最初は、米国での観測を予定していたようですが、曇天で断念とのことでした。そこで、オーストラリアで観測をしていただきました。すごいですね……」というメイルが届きます。遊佐氏の確認は、02時31分にダンに報告しました。そして、この超新星は、その1時間後の02時22分到着のCBET 1925で公表されました。
CBET 1925を見た門田氏から03時47分に「早々に公表されましたね。発見、おめでとうございます。先日のへびつかい座新星では、当夜の確認観測は翌日まで持ち越しになりましたが、今回は翌日の観測ですぐに公表されました。確認観測としては、ある程度の時間を置いた方が有効なのかもしれません。板垣さん、遊佐さん。アストロアーツのWebニュースに画像を掲載したいので、発見画像と確認画像をお借りできないでしょうか」というメイルがあります。そのあとの04時48分には、この発見を知らせる新天体発見情報No.147を報道各社に送付しました。遊佐氏からは05時39分に「おはようございます。一眠りしている間に公表となっていました。板垣さん。超新星発見おめでとうございます。隣の県から、いつもお祝いさせていただいておりましたが、今回は、私にとっても大変喜ばしい発見となりました。中野さん。いつもお世話さまです。さっそく「新天体発見情報」をお送りいただき、ありがとうございました。今後とも、よろしくお願いします」というメイルがあります。『はい。どうぞよろしく』。深夜の仲間が増えるのはうれしいことです。そして、06時36分に板垣氏から「おはようございます。ちょっと休んだつもりがおおまちがい。肝心な東の低空は捜索できませんでした。目が覚めたら太陽が昇っていました。残念です。お陰さまでSN 2009imとなりました。中野さん。なにかとありがとうございます。早く身体の調子を戻して下さい。遊佐さん。遠隔操作での観測、すごいです。ありがとうございます。門田さん。いつも早朝までの観測、頭が下がります」という総括が届いていました。そして、連絡を忘れていた多胡氏からの「へびつかい座新星」の画像を板垣・門田氏に送り帰路につきました。08時31分のことです。
その夜(8月26/27日)、01時31分には、門田氏より「画像の提供ありがとうございました。26日夕方、Webニュースが公開されました。中野さん。新天体発見情報、ありがとうございます。いつもながら、迅速で的確な対応に感服です。板垣さん。おめでとうございます。つい先日、50個の発見についてお話をうかがったばかりでした(本誌2009年11月号参照)。短期間の捜索で51個目を見つけられましたので、ビックリしました。遊佐さん。リモート望遠鏡で確認観測に成功して良かったですね。未知の光を発見者の次に目にして、ドキドキだったのではないでしょうか」という連絡があります。しかし、私は、この夜は、板垣氏から頼まれたメイルの翻訳に没頭させられました。
遊佐氏からは、8月27日10時34分に板垣・門田氏と私宛に送られたメイルが届きます。そこには「みなさま、おはようございます。門田さん。アストロアーツのWebニュース拝見しました。画像を使っていただきありがとうございます。アストロアーツのWebページは、毎日お世話になっています。今後ともよろしくお願いします。板垣さん。大崎生涯学習センターのホームページでも板垣さんの発見画像を使用させていただければと思います。8月25日にいただいたものの使用許可をいただけるでしょうか。今朝、地元の大手新聞「河北新報」に、板垣さんの超新星発見の記事が社会面に掲載されました。板垣さんのコメントも掲載されていましたね。昨日、当方にも共同通信社の電話取材があり、私の確認画像を提供しました。共同通信の配信網の各紙、テレビニュース画面でも使われるとのことでした。中野さん。「新天体発見情報」は、各報道機関向けにご提供されている情報と存じ上げていますが、これを地元の「大崎タイムス社」という全国ネットに加入していない小さなローカル紙にも、私の方から提供させていただいてよろしいでしょうか。ご承諾、よろしくお願いします。今回、初めて超新星の確認作業をさせていただきました。門田さんの言われるとおり、本当にドキドキでした。緊張感と寝不足と翌日の勤務で、夕べは晴天にもかかわらず10時間も寝てしまいました。超新星の確認観測や報告のやり方は、「星ナビ」に連載されている中野さんの「新天体見情報」を読んでいて、なんとか把握はしていたつもりですが、実際にしてみると難しいですね。今回、何か不足している点やおかしい点などありましたら、ぜひご指導いただけたらと思います」と書かれてありました。もちろん、私に関係することは答えておきました。同じ日、門田氏から「参考までにお知らせします。「すざく」が8月28日にへびつかい座新星2009を観測するとのことです。また、ガンマ線バースト観測衛星「Swift」のXRT(X線望遠鏡)と、UVOT(紫外可視望遠鏡)で観測されています」という連絡があります。苦労して発見した天体が研究に利用されることは、発見者にとってもうれしいことでしょう。