火星の溝を刻んだのは水ではなく二酸化炭素か?
【2001年4月2日 Spaceflight Now / University of Arizona News Release (2001.04.01)】
2000年7月、火星の峡谷の縁やクレーターの縁に見られる小さな溝が、液体の水により比較的近年に刻まれた可能性があるという発表があった。しかしアリゾナ大学のMusselwhite氏らは、溝を刻んだのは水ではなく、特殊な形態の二酸化炭素であると考えている。
火星南極地方の窪地の壁
撮影=マーズ・グローバル・サーベイヤー探査機 (MOC2-237)
Credit: NASA/JPL/Malin Space Science Systems
Musselwhite氏らは、問題の溝のほとんどが南半球の高緯度地方にあることに注目した。この地方は、地質学的に古く不活発で、さらに寒いため、液体の水が存在し得る条件としては最悪である。
また南半球は、北半球に比べて夏冬の温度差がずっと大きい。なぜなら、火星の軌道は円ではなく楕円あり、南半球の夏には火星は太陽に比較的近く、南半球の冬には火星は太陽から比較的遠くに位置するためだ。北半球ではこの逆であるため、南半球にくらべると夏冬の温度差は小さい。
そしてもう一点、溝が始まっている地点が常に、峡谷やクレーターの縁の最上部から高度にして100メートルほど下がった地点であることも、重要な着目点だ。
Musselwhite氏らの考えるシナリオは、次のようなものである。
南半球の極寒の冬においては、火星の薄い大気の大部分を占めている二酸化炭素が凍り、微細な霜となって地表へと舞い落ちる。度重なる隕石の衝突にさらされてきた火星の地表は、主として多孔質の砂利状であるため、地表に舞い落ちた霜の粒子は地下に浸透していき、やがて地中の空洞をすっかり満たしてしまう。その後も霜は降りつづけ、地表は二酸化炭素の氷(ドライアイス)に覆われる。
春が訪れ、温度が上がり始めると、地中の二酸化炭素の氷は温まり気化しようとする。しかし、空洞は氷ですっかり満たされているため、気化しようとするにつれて圧力が上がる。そして、地下100メートルより深くでは、低温・超高圧のもとで二酸化炭素は液体となる。二酸化炭素の場合、氷より液体の方が体積が大きいため、高い圧力が維持される。
そのころ地表では、春の訪れに伴なって地表の二酸化炭素の氷が昇華しはじめ、地表の氷が薄くなっていく。そして地表を固く閉ざしていた氷が充分薄くなると、地中の二酸化炭素の液体が地表に噴出する。
しかし、地表に噴出した二酸化炭素の液体は、液体のまま地表を流れるわけではない。急に圧力が下がったことにより、一気に気化してしまう。それとともに温度も下がり、微細な氷となる。そして、気体の二酸化炭素・固体の二酸化炭素・砂礫が混じり合った懸濁浮遊流 (suspended flow) となって、斜面を下り、溝を刻む。
以上が、Musselwhite氏ら考えるシナリオだ。地球の極地方に、これとひじょうに良く似たプロセスが見られる。また、このプロセスでは、溝を刻むためには比較的少ない二酸化炭素の液体があれば良いという。
そして、溝の形成が現在まで続いていることについても、充分あり得るという。ただし、Musselwhite氏は、それを確認するためには、同一の溝について複数の画像を得る必要があると指摘している。
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