りゅう座流星群の母天体、発見か?
【2003年12月11日 国立天文台・天文ニュース(688)】
流星群というのは、主に彗星から放出された塵粒(ちりつぶ)が、ある時期にまとまって地球に降ってくる現象です。流星の元になる塵粒の群れは、母親の彗星の軌道に沿って広がり、そこに地球が近づく時期に流星群が現れるわけです。
11月中旬に現れるしし座流星群は、母親の彗星であるテンペル・タットル彗星が約33年ごとに回帰するたびに、塵粒の密集部も連れられるようにして地球のそばまでやってきていました。そのため、1998年から2002年までたくさんの流星が見られたわけです。
ところが、もっと古い流星群になると、母親が回帰していようがいまいが、その場所にこだわらず、流星群の出現数は毎年ほとんどかわりません。これは、塵粒が長い年月のうちに軌道上にほぼまんべんなく分布してしまったためです。もっと古い流星群になると、もはや母親さえもわからないものがあります。
そのひとつが1月4日頃に出現するりゅう座流星群です。昔ここにあった古い星座名を用いて、しばしば「四分儀(しぶんぎ)座流星群」と呼ぶこともあります。
この流星群は8月のペルセウス座流星群、12月のふたご座流星群と並んで、毎年よく活動する規模の大きな三大流星群のひとつですが、いままでその母親の確実な候補天体は見つかっていませんでした。
アメリカ航空宇宙局(NASA)エイムズ研究所のイェニスキンス(P. Jenniskens)は、小惑星2003 EH1の軌道が、このりゅう座流星群の母天体らしいと発表しました。
この小惑星は、今年3月6日、アメリカ・ローエル天文台の小惑星サーベイで発見されたもので、黄道面に対し非常に立った軌道傾斜角を持つ特異な小惑星です。りゅう座流星群の軌道は、この天体のものと酷似していたのです。この天体はいまのところ小惑星状で、彗星のようなガスの蒸発は見られません。しかし、ふたご座流星群の母天体も小惑星として分類されているように、かつて彗星であったものが揮発成分を失ってしまったのかもしれません。
かつて、1979年に長谷川一郎(はせがわいちろう、大手前大学教授)さんは、東洋の古記録を調べて、1491年初頭に現れた「C/1490 Y1」という彗星がりゅう座流星群の母天体の可能性があると指摘していました。
イェニスキンスは、この彗星がもともと母天体であり、その名残或いは破片が、今回の小惑星の可能性があると指摘しています。
いずれにしろ、今回の母天体候補は流星群の進化の研究をすすめる上でのよいサンプルになるのは間違いないでしょう。
(アストロアーツ注:)
「りゅう座ι流星群」の正式名称は「しぶんぎ座流星群」です(日本流星研究会の小川宏氏よりご指摘いただきました)。