すばる、木星の近傍を回る衛星の起源に迫る

【2004年12月24日 国立天文台 アストロ・トピックス(69)

木星をはじめとする惑星は、太陽系が生まれたときに太陽の周りを回っていたガスや塵(ちり)が集まって形成されたと考えられています。また、誕生して間もない木星(原始木星)周辺はガスや塵でできた円盤が取り囲み、木星を中心としたミニ原始太陽系のような状態だったという考えが有力です。ガリレオ・ガリレイが見つけた4つのガリレオ衛星(内側からイオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)、この円盤の中でガスから凝縮した塵などが集まってできたと考えられています。

(木星の内側を回る小衛星の軌道)

(木星の内側を回る小衛星とカリスト)

(上)木星の内側を回る小衛星の軌道、(下)木星の内側を回る小衛星とカリスト(提供:国立天文台、衛星、木星の画像:NASA/JPL-Caltech)

ところで、木星にはガリレオ衛星の他に、イオより内側を回っている小さな衛星が4個と、ガリレオ衛星の外側を回っている衛星が55個見つかっています。外側を回る衛星は軌道の特徴から木星が形成されたときに捕獲されたと考えられている一方、内側を回る4つの小衛星の起源には、これまでふたつの説が提案されていきました。一つの説は、その軌道の特徴から、ガリレオ衛星と同様に現在の位置に相当する原始木星系円盤内で凝縮した塵からできたというものです。もう一つは、反射率や不規則の形状が小惑星と似ていることから、外側を回る衛星と同様、太陽の周りを回っていた小天体が木星に捕獲されたとする考えです。

これらの小衛星は小さいため暗く、また木星からのひじょうに強い散乱光が邪魔をして、地球から観測を行うことは、なかなか困難といえます。探査機のボイジャーやガリレオが鮮明な写真を撮っていますが、その組成を解明するための観測データは、これまでほとんどなく、内側の小衛星の起源は謎のままでした。

国立天文台の高遠徳尚(たかとおなるひさ)主任研究員らを中心とする、国立天文台、ハワイ大学、東京大学の研究者からなるチームは、これらの小衛星のうち、アマルテアとテーベのふたつについて、世界で初めて赤外線スペクトルの観測に成功しました。観測が難しい波長3マイクロメートルより長い波長域は、すばる望遠鏡に取り付けた赤外線撮像分光装置(IRCS)を用い、また短い波長域については、広い波長域を一度に観測できるNASA赤外線望遠鏡の観測装置SpeXを用いて、それぞれの望遠鏡の特色を活かした観測を実施したのです。その結果、アマルテアに水の存在を示す波長3マイクロメートル付近の深い吸収帯を発見しました。この「水」は水そのものではなく、含水鉱物に取り込まれている水と考えられます。比較的低温で形成される含水鉱物の存在によって、アマルテアの形成場所は原始木星系円盤内でひじょうに高温であったとされる現在の位置ではなく、もっと遠くの低温の環境であったことが明らかになりました。

アマルテアの表面は、ガリレオ衛星の一番外側を回っているカリストの氷の少ない領域とひじょうによく似ています。ガリレオ衛星が生まれたころは「微衛星」がたくさん存在していたとされるので、アマルテアも木星本体に大量に吸いせられた微衛星の生き残りなのかもしれません。あるいは、これらの小衛星は木星本体が成長していく過程で木星に落ち込んで行った「微惑星」の残骸とも考えられます。事実アマルテアやテーベのスペクトルは、木星付近で太陽の周りを回っている小惑星や、そこから来たと考えられている隕石とも似ています。

今回の観測では、小衛星が原始木星系円盤内の遠い領域から来たのか、木星系の外から来たのかは区別がつきません。しかし、いずれにせよ現在の場所で生まれたのではなく、別の場所で形成されて、現在の位置に落ち着いたことがはっきりしました。この結果は、木星本体や衛星の形成過程の理解に大きく貢献することはもちろん、今後の研究に重要な示唆を与えることでしょう。この成果は2004年12月24日付け米国科学雑誌Scienceに掲載されました。

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