すばる望遠鏡、もっとも重元素の少ない星を発見

【2005年4月14日 国立天文台 アストロ・トピックス(97)

国立天文台などの研究者からなる研究グループ()は、すばる望遠鏡などを用いた観測により、これまでに知られている中で重元素量がもっとも少ない星を発見し、その化学組成を測定することに成功しました。

この宇宙に存在する鉄のような重元素は、恒星の核融合反応によって生まれ、その星が一生を終えて超新星爆発などを起こすことで、宇宙にばらまかれます。ビッグバン直後の宇宙では水素とヘリウム以外の元素はほとんどありませんので、宇宙誕生後おそらく数億年の間に生まれた最初の恒星たち、すなわち第一世代の星たちによって、最初に宇宙に重元素が生まれたわけです。

ところが、この第一世代の星たちは、太陽のような現在輝いている星とは性格がまったく異なると思われています。重元素がまったくなく、純粋な水素とヘリウムからできていたために大きくなりやすかったとされています。そのため第一世代の星は、太陽質量の数百倍もあるような超大質量星ではなかったか、と考えられてきましたが、はっきりした観測的証拠は得られていません。この第一世代の星がどのようなものであったかを探るのは、天文学の大きなテーマとなっています。

これを探る手がかりが、私たちの銀河系の中に生き残っている老齢の星にあります。若い星は世代交代をするたびに重元素が増えていきますが、老齢の星は宇宙初期に生まれたため、重元素の含有量は少ないはずです。なるべく重元素量が少ない恒星を探し出し、その元素組成に残された痕跡を探れば、第一世代の星の特徴、特にその質量を知ることが可能になると期待されています。

当該研究グループは、鉄組成が既知の恒星の中でもっとも低い恒星HE1327-2326を発見し、その後、東京大学のマグナム望遠鏡を用いて温度を決定すると共に、すばる望遠鏡によって詳しい化学組成を測定することに成功しました。その結果、この星の重元素の代表である鉄の含有量は太陽のわずか25万分の1と、これまで知られている星のなかでもっとも少ないことが判明しました。また、不思議なことに炭素がいままで観測されてきた重元素量の少ない星に比べて、際だって高いこともわかりました。この結果の解釈は、これからの課題ですが、いずれにしろ今回の結果は、第一世代の星による重元素合成の結果を示すもので、宇宙で最初の星形成プロセスや元素の起源に重要な制限を与える貴重な成果といえるでしょう。

この研究結果は、英国ネイチャー誌4月14日号に掲載されています。


注: 国立天文台、東京大学、北海道大学、東海大学、オーストラリア国立大学、ハンブルグ大学、ミシガン州立大学、ウプサラ大学(スウェーデン)、英国放送大学の研究者によるチームです。

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