宇宙に浮かぶ巨大「竜巻」
【2006年2月16日 CfA Press Release】
NASAの赤外線天文衛星、スピッツァー宇宙望遠鏡が、宇宙に浮かぶ巨大な竜巻のような構造をとらえた。その正体は、生まれたばかりの星が発するジェットによる衝撃波だ。「今まで何千枚というスピッツァーの画像を見てきたが、このような構造を見るのは初めてだ」とハーバード・スミソニアン天体物理学センターの研究者ジョバンニ・ファツィオ氏(Giovanni Fazio)が語るように、形といい、発する波長の多彩さ(疑似カラーで表現されている)といい、とてもユニークなものだ。「竜巻」は、目下多くの科学者を巻き込んで議論の対象となっている。
地球における竜巻(トルネード)といえば、高速で回転する空気の渦が地上の物を上空へ巻き上げてしまう恐ろしい気象現象だ。そこで、この「竜巻」も、中央下寄りにある恒星から画面上に向かって吹き出しているように見えがちだが、実はそうではない。「竜巻」は、写真の上端からはずれた位置にある星から吹き出すジェットによって作られている。そう、流れは画面の上から下に向かっているのだ。
カメレオン座の方向には100以上の若い星を含む星形成領域が存在し、数々の双極ガス流(解説参照) が観測されている。秒速100キロメートルを優に超えるガスのジェットは、周囲の星間物質に衝突して衝撃波を作り、輝いて見える。こうしたガス流、および衝撃波の多くは、地上の望遠鏡で、特に可視光によって観測されている。
この「竜巻」もそうしたガス流の1つ、ハービッグ・ハロー49/50(HH49/50)が作り出した構造だ。HH49/50も元々地上で観測されていたが、その様子に興味を持った研究者が、スピッツァーの目を向けてみたところ、「竜巻」が浮かび上がってきたのだ。
「竜巻」の正体がわかっても、この天体を竜巻らしく見せている構造が、なぜ形成されたかという疑問は残るだろう。(1)なぜ先端に向かって構造が細くなっていくのか、(2)回転しているように見せている、らせんのような構造はなぜできたのか、そして(3)結局先端にある恒星は関係あるのか。
1つ目の疑問については、穏やかな水面をボートや水鳥が進むときのことを思い浮かべればいい。進行方向の反対側に、航跡が広がっていくのを見たことがあるはずだ。HH49/50の場合も同様で、ガス流が星間物質の中を通るに従って、その後ろに衝撃波が円すい形に広がっているのだ。ところで、水面の航跡は広がるほど弱くなりやがて消えていくが、同じことがこの「竜巻」でも起きていて、それが疑似カラーによって表現されている。先端の方は青い色、すなわち比較的短い波長の赤外線で、衝撃波の先端における分子の高い励起状態に由来する。やがて分子の励起状態も低くなると赤くなる。つまり、より長い波長を放射するようになっていく。
2つ目の、らせん状構造については、諸説あるがどれも推測の域を出ない。この領域の磁場によって作られたという意見や、衝撃波によってところどころで乱流が形成され、まるで渦巻いているかのように見えるという意見もある。少なくとも、HH49/50全体や双曲ガス流が回転しているわけではないのは確かだ。
最後に先端の恒星だが、たまたまHH49/50の手前にある恒星が、重なって見えているだけかもしれない。しかし、本当にガス流の先頭に恒星が存在する可能性もある。とすれば、恒星の周りがぼんやりとハローのように輝いて見えるのは、この恒星の周囲へとガスが流れ込んでいるからだろう。
双極ガス流 :星形成段階に見られるガス噴出現象のこと。原始星の周りに生じた降着円盤から極軸方向に高速の分子ガスの流れが噴き出すもの。星形成にともなうかなり一般的な現象であると考えられている。(「最新デジタル宇宙大百科」より)