地球外生命を探すなら、窒素を探そう
【2006年5月17日 USC Public Relations】
多くの科学者にとって、生命探しといえば水探しだ。「生命がいるかもしれない」と言われている太陽系天体は、「液体の水があるかもしれない」天体に他ならない。この常識に、異議を唱える生物学者がいる。彼らによれば、窒素こそが決定的証拠だ。
「水のないところに生命がいるなんて、想像しにくいです。でも、生命のないところに水があるのは、簡単に想像できます。」そう語るのは、米・南カリフォルニア大学で地球科学を教えるKenneth Nealson教授。Nealson教授らの意見では、たとえ火星で水を見つけても、あくまで生命が存在する可能性が示唆されるだけだ。一方、窒素は、生命の痕跡そのものだという。
生命を構成する物質は、水を別とすれば炭素が思い浮かぶだろう。炭素は、あらゆる有機物の中核をなす元素だ。ではなぜ、炭素ではなく窒素なのだろう?まず、炭素と違って、窒素は岩石や鉱物の主成分ではない。それでいて、生命には不可欠な存在だ。だからこそ、窒素有機物が地球外の天体で見つかったら、生命活動により生じたと考えられる。
では、地球外生命が存在する最有力候補の火星はどうだろう。残念ながら、火星の大気に含まれる窒素の割合はひじょうに小さい。地球の大気は8割が窒素だが、実は、常に生命活動によって供給されている。現在の火星で、生命活動によって窒素が生産されているとは考えにくい。しかし、かつて火星に生命が存在したのなら、当時は大気に窒素が充満していたのではないか、とNealson教授らは考えている。
共同研究者のDouglas Capone教授は、NASAが火星探査プログラムに「窒素探し」も加えるべきだと主張する。「私たちが提唱しているのは、火星の地層を掘り出して検査するだけのことですよ。どうせ、水を探すために同じ事をするでしょうから。」
火星探査
1975年に打ち上げられたアメリカの「バイキング1号」は、火星表面で生物反応の実験を行ったが、生命が存在する証拠は得られなかった。しかしその後も、火星から飛んできた隕石に生命の痕跡のようなものが発見されたり、水が流れていたことを示す地形が次々と見つかったりするにつれて、火星生命への期待が高まっている。アメリカは今後、サンプルリターンや有人探査を計画している。(スペースガイド宇宙年鑑2006より)