ガンマ線バーストは人類の脅威になりえるか

【2006年5月25日 Hubble Newscenter

「ガンマ線バースト」といえば宇宙最大規模の爆発現象として知られているが、もし地球のすぐ近くで発生したらどうなるだろう?オゾン層の破壊や大規模な気候変動を引き起こす可能性があり、恐竜絶滅の原因がガンマ線バーストだと考える科学者さえいるほどだ。だが、NASAのハッブル宇宙望遠鏡HSTを使った研究によれば、台風や地震とは違って心配する必要はなさそうだ。


(HSTが撮影した、バーストの現場となった銀河のうち6個)

HSTが撮影した、ガンマ線バーストの現場となった銀河。バーストが起きた位置は緑色の十字で示されている(ただしバーストとその残光は既に消えている)。上段中央の銀河だけが渦巻銀河で、残りはすべて不規則銀河。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, Andrew Fruchter (STScI), and the GRB Optical Studies with HST (GOSH) collaboration)

ガンマ線バーストは、ブラックホールの誕生に伴う爆発現象と考えられている、「ロング(長い)バースト」と「ショート(短い)バースト」の2種類に分けられる。ロングバーストは2秒以上続くガンマ線バーストで、最近の研究により極超新星(ひじょうに規模の大きい超新星)であることがわかってきた。一方、ショートバーストは2秒以内に消えてしまうもので、2つの高密度天体(中性子星やブラックホール)が衝突合体することで生じるとみられる。どちらもはるか遠くの銀河で起きているので、実際の爆発規模は大きいといえども、観測はおろか検出するのも大変だ。

しかし、いくら人類がガンマ線バーストを捉える努力をしているといっても、目の前で爆発するのはごめんこうむりたい。果たして天の川銀河でガンマ線バーストが起きる可能性はあるのだろうか。

ガンマ線バーストのうち、特にロングバーストがどんな環境で起きているのか、アメリカとヨーロッパの研究者グループが調べた。グループはロングバーストが起きた銀河と、ガンマ線バーストを伴わない(つまり普通の規模の)超新星が起きた銀河にHSTを向けて、その種類を調べたのである。すると、超新星爆発はどんな種類の銀河でも起きているが、ロングバーストが起きる銀河は限られていることがわかった。観測対象となった42のロングバースト「跡地」の中に、天の川銀河のような渦巻銀河は1つしかなかったのだ。ほとんどのロングバーストは規模の小さい、不規則銀河で起きていたのである。

まだ宇宙が若かった頃の産物であるこれらの小銀河には、水素以外の重元素がひじょうに少ない。逆に、恒星の核融合による重元素生成がしばらく続いてから生まれた、天の川銀河のような渦巻銀河には、最初から重元素が混ざっている。ロングバーストの正体は極超新星だが、極超新星は太陽の何十倍という質量を持つ巨大な恒星が起こす大爆発だ。しかし、恒星に重元素が多く含まれていると、爆発する前に表層のガスが吹き飛ばされやすく、爆発の規模が小さくなってしまう。おかげで、宇宙誕生から137億年経過した現在の天の川銀河では、ロングバーストの心配はほとんどないというわけである。

おそらくここまで読んでも、「ではショートバーストはどうなるんだ」と不安が残るだろう。確かに、高密度天体の衝突合体によるガンマ線バーストが天の川銀河で発生する可能性は、(たいへん小さいとはいえ)否定できない。しかし、ショートバーストはロングバーストに比べて爆発の規模そのものが100から1000分の1しかないので、われわれに与える影響はかなり小さいだろう。第一、そんなことを心配しているくらいなら、よほど気にするべき災害が地上にはごまんとある。

ガンマ(γ)線バースト

1967年、アメリカの核実験監視衛星によって偶然発見された現象。数秒から数十秒の突発的なガンマ線のバーストが全天のあちこちで観測されるもの。1度きりの現象で、全天で1日に1個程度検出されている。1997年に、ガンマ線バーストの位置に、X線・可視光・電波で光り、急速減光していく天体=残光が発見され、ガンマ線バースト研究は一気に進んだ。(「最新デジタル宇宙大百科」より)