暗い星ほどよく語る−ハッブルで球状星団中の白色矮星を観測
【2006年9月4日 Hubble Newsdesk】
NASAのハッブル宇宙望遠鏡HSTが、球状星団NGC 6397の中に存在する赤色矮星と白色矮星を観測した。きらびやかな星の群れの中にあって、白色矮星はもっとも暗い天体だ。しかし、球状星団全体にかかわる重要な情報を教えてくれる。
球状星団(解説参照)といえば無数の星が狭い領域にひしめき輝いていて、宝石箱のように華やかなイメージがある。だが、その球状星団の中でもっとも暗い星たちを観測する天文学者のチームがいる。
球状星団は天の川銀河の「化石」と呼ばれるほど、年老いた星ばかりで構成されている。推定されている年齢は宇宙年齢にも匹敵するほどなので、多くの天文学者の興味をひいてきた。このとき、球状星団の年齢を調べる方法として、他の星よりはるかに暗い天体である白色矮星を観測する手法がよく用いられる。白色矮星は太陽質量の8倍以下の恒星が核融合を終えたときに残る、徐々に冷えていく天体だ。時間と共にどれだけ温度が下がるかは予想可能で、どれだけ冷えたかがわかればどれだけ年をとっているかがわかる。宝石箱の中でもっとも暗い星たちにこそ、もっとも高い価値があるのだ。
この観測を行ったのは、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学のHarvey Richer氏が率いるカナダ、アメリカ、オーストラリアの研究者のチーム。地球にもっとも近い球状星団の1つ(8500光年先)、NGC 6397をHSTで撮影した。高い分解能のおかげで、球状星団の星と、手前および奥にある星とを区別できるという。念のために過去の画像も調べ、球状星団に属する星は固有運動が一緒であることを確かめてそれを裏付けた。
撮影された画像には白色矮星とともに、核融合を起こしている恒星としてはもっとも小さい種類の「赤色矮星」も数多く写っていた。もっとも暗い白色矮星は28等級で、もっとも暗い赤色矮星は26等級。月面上のろうそくの炎を見ているようなものだという。
普通、天体の輝きは温度が下がるにつれて白から赤へと変わる。単純に言えば、古くて冷えた星ほど赤い。しかし、今回見つかった白色矮星の中には、あまりにも温度が下がったために表面上で化学反応が起き、逆に青くなっているものもあった。この現象は予言されていたにもかかわらず、今まで見つかっていなかった。逆に言えば、今回見つかった白色矮星がそれだけ古くて暗いものだということを意味する。
白色矮星の観測から、NGC 6397の年齢は120億歳近いことがわかった。ビッグバンからわずか20億年で誕生したことになる。その誕生の経緯や、120億年近い生涯については、白色矮星や赤色矮星を含めたすべての星を分析することで明かされていくだろう。
球状星団
数万〜数十万個の恒星が数百光年の領域に集まった星団。球状に恒星が密集したもので、大口径望遠鏡の高倍率を用いても中心部の星ぼしを分離することが困難なほど、星が集中している。散開星団と異なり、銀河を取り巻くように銀河ハローに分布し、銀河中心に近づくほど数が増える。(「最新デジタル宇宙大百科」より)