ハッブル宇宙望遠鏡で見る、遠くと近くの銀河衝突

【2006年10月19日 Hubble Newsdesk(1)/(2)】

NASAのハッブル宇宙望遠鏡HSTがとらえた「クモの巣銀河」と「アンテナ銀河」の画像が公開された。どちらも、銀河どうしが衝突して合体しようとしている現場だ。「クモの巣銀河」は100億光年以上のかなたにある、形成中の超巨大銀河だ。一方、比較的天の川銀河に近いアンテナ銀河では、衝突によって巨大星団ができるようすとその運命を見ることができる。


巨大銀河の建設現場

(「クモの巣銀河」とその周辺)

HSTが撮影した「クモの巣銀河」とその周辺。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, G. Miley and R. Overzier (Leiden Observatory), and the ACS Science Team)

「クモの巣銀河」とあだ名をつけられた銀河MRC 1138-262は、うみへび座の方向106億光年の距離にある。ひじょうに巨大な銀河であり、強力な電波源でもある。

HSTは可視光と赤外線でMRC 1138-262を撮影した。画像からは、いくつもの小さな銀河が中心に向かって吸い寄せられ、長く引き延ばされてクモの巣の「縦糸」のようになっていることがわかる。106億光年離れているということは、そこに見えているのは誕生してから30億年経過したころの宇宙の姿だ。宇宙が若く、銀河や銀河群が次々と形成されていたと見られる時代である。

銀河の形成に関して有力な理論に、「最初に小さな銀河が生まれ、やがて合体して大きくなった」というものがある。現在の宇宙に見られる巨大な楕円銀河も、小銀河の融合によって形成されたと考えられている。MRC 1138-262に次から次へと銀河が吸収されていくようすは、理論通りの光景と言えよう。

衝突が生み出す巨大星団

(アンテナ銀河の中心部)

HSTが撮影したアンテナ銀河の中心部。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, and the Hubble Heritage Team (STScI/AURA)-ESA/Hubble Collaboration)

一方、こちらは衝突銀河として有名な「アンテナ銀河」(NGC 4038-4039)の画像だ。2つの渦巻銀河が衝突してから数億年ほど経過したもので、2つの銀河の中心部は融合しつつある。からす座の方向6200万光年の距離にあり、衝突銀河としてはもっとも近いものの一つだ。アンテナ、あるいは虫の触角になぞらえられるのは、2つの銀河の「航跡」であるガスと星の筋だが、この画像には入っていない。

ぼんやりとオレンジ色に見えているのは、2つの銀河の中心核だ。主に、年老いた恒星からなる。その手前を横切るように走る黒い筋はちりの集まりで、ピンク色に輝くのが、銀河の衝突によって爆発的に誕生した若い星の集まりだ。一つ一つが、何万個もの恒星からなる巨大星団である。

研究者たちが画像から分析したところによれば、次々と作られた巨大星団も、あまり長続きしないようだ。誕生から1000万年後にまとまり続けている星団は、全体の10%しかないという。残りの星団はばらばらに散って、銀河の中の「平凡」な恒星たちに混じってしまう。だが、星団の中でもとくに巨大なものは長い間生き残り、われわれの天の川銀河にも見られるような球状星団へと姿を変えるだろう、と考えられている。