小さな恒星を巡る巨大な氷惑星の謎−氷河期に突入する原始惑星系円盤
【2006年10月25日 CFA Press Release】
現在見つかっている系外惑星でもっとも小さなタイプは、地球の5〜15倍の質量をもつ惑星だ。岩石と氷でできていると考えられている。しかしこうした巨大固体惑星の中には、太陽よりも小さな恒星、赤色矮星の周りを回るものもある。太陽と比べて惑星の材料となる物質は少なかったはずだが、どのようにして形成されたのだろう。
系外惑星といえば、「ホット・ジュピター」(熱い木星型惑星)が有名だ。木星と同じくらいの質量を持っていて、恒星のすぐ近くを回る惑星のことである。一方、最近注目されている系外惑星のグループに「スーパー・アース」(巨大地球型惑星)がある。地球より大きく、天王星や海王星(地球質量の約15-17倍)より小さな惑星だ。現在見つかっているもっとも小さなスーパー・アースの質量は地球の約5.5倍である。
スーパー・アースの主成分は、気体ではなくて固体であると見る天文学者が多い。しかし、スーパー・アースは太陽系で言う「地球型惑星」とは若干異なるかもしれない。核こそ岩石でできているが、大部分は氷ではないかと考えられているからだ。太陽系で言えば、氷でできた巨大な核がガスの下に隠されている天王星や海王星に近い。
こうしたスーパー・アースの多くは、「赤色矮星」と呼ばれる太陽よりも一回り小さな恒星の周りを回っている。しかし、中心の恒星が小さいということは、恒星が誕生したときに周囲を取り巻いていた原始惑星系円盤も小規模だったことを意味する。太陽系のように微惑星が合体していったというモデルでは、スーパー・アースの誕生を説明するのは難しい。
今年の6月には、「まず木星のようなガス惑星が誕生し、近くの巨大な恒星からの紫外線でガスが吹き飛ばされた」という説が発表された。しかし、それには誕生した赤色矮星の近くに巨大な恒星が存在することが前提となる。
オーストラリアとアメリカの天文学者からなる研究グループは、恒星が小さかったからこそ起きた、原始惑星系円盤における劇的なイベントが、スーパー・アースを生んだのではないかと発表した。
太陽は、一人前の恒星になるまでの形成期にも比較的安定して輝いていた。原始惑星系円盤は安定して暖められ、内側では固体成分だけが集まって地球型惑星を形成し、外側ではガスも集積して木星型惑星を形成したとされている。両者を区切る「寒冷前線」はほとんど動かない。
しかし、赤色矮星の場合はそうはいかない。最初は明るいが、ガスが集積して「独り立ち」するまでの過程で急激に暗くなってしまうのだ。「寒冷前線」が円盤の内側へと進み、水をはじめとした気体はことごとく氷のかたまりになる。原始惑星系円盤を急激に襲った氷河期の中で、大量に誕生した「雪の結晶」は、それまでゆっくり成長していた微惑星に降り積もる。こうして、太陽よりも小さな恒星の周りに地球よりも大きな固体惑星が誕生するのだ。
赤色矮星の周りを回るスーパー・アースは、マイクロレンズ効果(解説参照)でいくつか発見されている。しかし、その延長上に「第2の地球」は望むべくもないだろうと研究チームは見る。スーパー・アースは地球以上に豊富な水を含むが、すべて凍っていて、液体の水は存在しない。赤色矮星はあまりにも暗くて冷たすぎ、水が液体になる「ハビタブルゾーン(生命の存続可能な領域)」は地球軌道のはるか内側だ。まして、スーパー・アースは太陽系でいえば小惑星の軌道に相当する距離にある。ホット・ジュピターと同じくらい、スーパー・アースは生命にとって困難な環境だ。
マイクロレンズ効果
宇宙誕生から10万分の1秒後に発生したとされる多数のミニブラックホールや、軽くて暗い褐色矮星が、ちょうど遠方の恒星の前を横切る時、重力レンズ効果によってその恒星が明るく見えると考えられる現象。1993年に最初の候補が発見された。現在も銀河系中心部や大マゼラン雲を対象に、マイクロレンズ効果の検出を目的としたサーベイが実施されている。(「最新デジタル宇宙大百科」より)