タイタンに高速ジェット気流の存在 ― 恒星食でここまでわかる

【2007年1月26日 ESA News

土星探査機カッシーニの到着に先立つ2003年11月、土星の衛星タイタンが2度にわたり地球から見て恒星の前を横切った。この貴重な機会のおかげで、タイタンの大気とその動きについて詳しいデータが得られた。2005年1月、カッシーニは子機ホイヘンスをタイタンに投入したが、そのときの観測の一部はすでに予言されていたのである。


(食の際のタイタンの想像図と恒星が描いた光度曲線)

食の際のタイタンの想像図と恒星が描いた光度曲線。クリックで拡大(提供:NASA/JPL/Space Science Institute, ESA. Image by C.Carreau)

(タイタンに下降する小型探査機ホイヘンスの想像図)

タイタンに下降する小型探査機ホイヘンスの想像図。クリックで拡大(提供:NASA)

われわれ地球にいる観測者から見て、ある星の前を土星の衛星タイタンが横切る、「タイタンによる恒星食」が起こることがある。この際、星からの光はタイタンの陰に隠れるが、タイタンには厚い大気があるため、急に光が消えてしまうわけではなく、だんだんと暗くなっていく。このときの減光のようすから、タイタンの大気に関する情報が得られたのだ。

この食の観測機会に恵まれたのは、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の土星探査機カッシーニが子機ホイヘンスをタイタンに投じる14か月前、2003年11月のことである。タイタンが7時間半かけて、地球から見てちょうど2つの星の前を通過したのだ。最初の食はインド洋と南アメリカから、2回目の食は西ヨーロッパ、大西洋、北中米の各地で見ることができたため、チームが組まれそれぞれ観測が行われた。

研究チームがこの観測でもっとも待ち望んでいたものは、タイタンの大気がレンズのような役割を果たすことで起こる発光現象だった。タイタンを覆う大気が一様でむらのないものであれば、地球に落ちた影のちょうど真ん中だけで発光が見られるはずである。しかし実際には、影は三角形を描いて落ちていた。タイタンの大気が北極で押しつぶされていたためである。

食の時期、タイタンの南極は太陽に向かって傾いていた。そのため大気は暖められることで上昇し、北へ向かって移動する。そしてそこで再び大気は冷やされ、タイタン表面へ下降し、大気の分布にむらができたのである。

食の観測による発見はこれだけではなかった。タイタンの上空高度200km(北緯50度)に、地球上に吹く偏西風と同じ様な高速で移動する風が発見された。研究チームの計算によれば、風の移動速度は時速720kmほどで、タイタンの周りを(地球の)1日もかからずに1周してしまう。

さらに、観測と分析を行ったチームは、タイタンの大気突入を控えていたホイヘンス・チームに「高度510km付近で、急激な温度変化に遭遇するだろう」という予測を事前に伝えていた。事実、ホイヘンスは、予想された高度で、急激な温度変化に襲われ、観測チームの予想を裏付けることとなった。

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