オリオン大星雲に「分子のねじれ回転」で発生する電波

【2007年3月26日 富山大学

富山大学と国立天文台の研究チームが、オリオン大星雲が発する電波の一部について、星雲中の有機分子が大きくねじれながら回転することで生じていることをつきとめた。実験室での測定を20年前に野辺山電波望遠鏡が観測したデータと比べた成果である。星の誕生現場で起こっている化学反応の解明に役立ちそうだ。


(オリオン大星雲とギ酸メチル)

オリオン大星雲とギ酸メチル(提供:小林かおり(富山大学)、小形和己(富山大学)、常川省三(富山大学)、高野秀路(国立天文台 野辺山宇宙電波観測所 / 総合研究大学院大学))

(ねじれて動くギ酸メチル)

ねじれて動くギ酸メチル。グレー:炭素原子、赤:酸素原子、水色:水素原子(提供:同上)

オリオン大星雲(M42)は星形成が活発なガス領域で、星が生まれる過程を探るために赤外線や電波でさかんに観測されている。星雲中のガスには、大型の有機分子を含む多くの種類の分子が存在することが知られており、さまざまな波長の電波を発している。しかし、中にはどんな種類のどんな分子から放出さたのかわからないものもある。

電波の起源を明らかにするため、富山大学と国立天文台のチームはさまざまな分子の状態に対応する電波を地球上の実験室で調べた。その結果を1988年に野辺山45m電波望遠鏡で観測されたオリオン大星雲のデータと比べたところ、20年間謎とされていた7つの波長について正体が判明した。「ギ酸メチル」という有機分子が、大きくねじれながら回転するときに放出される電波だったのである。また、他の望遠鏡によるオリオン大星雲の観測結果も調べたところ、あわせて20個の波長の電波がギ酸メチルのねじれ回転と対応することがわかった。

また、野辺山の観測データが示すギ酸メチル分子の温度はおよそマイナス230度だった。一般に星を宿さないガスのかたまりはマイナス263度という極低温状態で、それに比べれば、形成中の星が存在する分だけ暖かい。

実験室のデータは、ねじれ回転するギ酸メチルがさまざまな波長の電波を放出していることを示した。富山大学では、ほかの有機分子についても、ねじれ回転に対応する電波の波長を調べている。そうした電波は、天体から届く電磁波の中では比較的弱いため、これまでは観測するのが困難だった。だが、現在南米チリで建設が進められているアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)は感度が高いので、分子のねじれ回転による電波を数多く拾える可能性がある。そうすれば、星が誕生する現場に存在する物質の種類はもちろん、温度や化学反応を研究する上で役立つと期待されている。

M42 / オリオン(座)大星雲

距離1500光年。冬の夜空に輝く勇者オリオンが腰にぶらさげた剣のあたりにある、有名な大散光星雲。目で見ても写真に撮っても、すばらしい美しさを見せてくれる。メシエは1771年に、蝶あるいは鳥が羽を広げたような姿と、トラペジウム(4重星)をスケッチに残している。M42の中心部では活発な星生成活動が行われていることが知られている。(ステラナビゲータ Ver.8天体事典より)