球状星団が3つの世代に分かれた証拠、
ハッブル宇宙望遠鏡が発見
【2007年5月15日 Hubble newscenter】
NASAのハッブル宇宙望遠鏡(HST)による観測で、球状星団NGC 2808を構成する星には3世代あることがわかった。球状星団の星はすべて同時に生まれたとする定説に反する結果だ。NGC 2808は例外的な巨大球状星団であるか、とても小さな銀河のなれの果てだと考えられる。
球状星団とは数十万個の恒星がとても狭い領域に集まった集団で、われわれの天の川銀河の周囲に点在している。天の川銀河と同時に形成された「離れ家」のような存在らしい。球状星団の星はすべて同時に生まれたと考えられている。なぜなら、ひとたび生まれた恒星はエネルギーを放射して周囲のガスを吹き飛ばしてしまうからだ。球状星団の重力は銀河に比べて弱く、ガスを引き留めることができない。
ところが、伊・パドヴァ大学のGiampaolo Piotto氏が率いる研究チームによれば、りゅうこつ座の方向3万光年の距離にある球状星団NGC 2808では事情が違うらしい。研究チームはHSTの分解能を活かして、NGC 2808を個々の星に分解して明るさと色を調べた。同時に生まれた星であれば、たとえ質量が違っても、明るさと色との間に一定の関係が成り立つ。しかし、NGC 2808は明確に3つのグループに分かれていたのだった。
年齢が異なるとはいっても、その差は最大で2億年だ。球状星団自体が125億歳であることを考えれば、「球状星団は年老いた星の集団」という従来のイメージはそのまま当てはまる。しかし、従来の考えに基づけば、最初の恒星が誕生してから2億年もたつと、もはや星の材料など吹き飛ばされているはずだ。
1つの可能性は、NGC 2808がガスを保持できるだけの重力を生み出していたということだ。天の川銀河の周りには球状星団が150個あるが、NGC 2808はその中でも際だって大きい。100万を超える星が存在し、質量を合計すると典型的な球状星団の2, 3倍にもなる。
あるいは、NGC 2808が身分を偽っているのかもしれない。もともとは天の川銀河とは独立に誕生した小さな銀河だったのが、天の川銀河の重力でガスをはぎ取られてしまい、そこで成長が止まったという考えだ。
研究チームによれば、やはり巨大な球状星団として知られるケンタウルス座のω(オメガ)星団にも複数の世代が確認されている。こうした現象は巨大な球状星団の特徴かもしれないし、逆にこれらの星団はすべて小さな銀河のなれの果てかもしれない。
研究チームのメンバーである米・ワシントン大学のIvan King氏は、「現時点で、今までの球状星団に対する考え方を完全に否定することはできません。しかし、この発見は球状星団における星形成の研究に新たな方向性を与えたことはまちがいありません」と話している。
球状星団
数万〜数十万個の恒星が数百光年の領域に集まった星団。球状に恒星が密集したもので、大口径望遠鏡の高倍率を用いてもn中心部の星ぼしを分離することが困難なほど、星が集中している。散開星団と異なり、銀河を取り巻くように銀河ハローに分布し、銀河中心に近づくほど数が増える。球状星団を構成する星は種族IIの星たちで、金属含有量が少なく年齢が100億年を超える年老いた星ぼしである。 (「最新デジタル宇宙大百科」より抜粋)